※身体の絡み未遂
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レイザは俺がまだ声変わりをしていない以前、俺を女だと勘違いしていたらしい。当時、度々何かと理由をつけては胸を揉みしだかれていた。それは俺の胸が貧相なことを嘆き(男であるのだからないのは当然である)、善意で行ったものだという。甚だ図々しい。誰に頼まれたワケでもない。遺憾とし難い。故に、俺が今になってレイザのために胸を揉み返してやることで、その遺憾は解消される。
後日、自室の前に来たレイザに軽く足を掛けてやろうと差し出す。俺の足をかわし宙に浮いた彼女の腕を掴み、部屋の中へと引き込んだ。体勢を崩し、俺に倒れ込んでくるレイザを抱え、そのまま床に押し倒した。上手く受け身が取れなかったレイザは呻き声をあげる。苦悶に歪む彼女の顔に唇の端がつり上がる。自分がした一連の動作の身勝手さに興奮する。
改めてレイザに馬乗りになり、手を髪に伸ばせば指を噛みつかれそうになる。実に気に食わない。
「何をする」
「それはこっちのセリフだ」
俺の不服に彼女は強い口調で噛みついた。昂奮しているのか、俺を強く睨み付けているようにも見える。勝気な表情にどうしてか唾液が口の溢れる。まるで彼女は自分が置かれている状況に理解ができていないようだ。 (いや?そうでもないな)
電気の点いていない俺の部屋の床に仰向けになった少女は、いつもより艶かしい。少し上下した肩は、隠しきれない心の動揺を露呈させているのだろうか。目を見つめれば、瞳は揺れ動き、一定時間こちらと目をあわすこともしない。歯を軋ませ、俺を威嚇する態度に変わりばえないが。
「レイザ」
「やめろ」
耳に唇を寄せて雰囲気を作ろうと目論むも、彼女の顔を直前に身体を押し退けられる。近くで見た彼女の額には汗の玉が浮いていた。目を強く瞑っている。俺から顔を背けるよう、首を傾けた。どうにもしおらしい反応に腹の底がずくずくとしてくる。これがムラムラするというものかと、冷静に判断し頭の片隅で笑う。
レイザが俺から顔を逸らすために首を傾けた位置は、丁度良く彼女ね左耳を露にさせた。俺の肩を掴み、小さく息づく。心なしか、恥ずかしそうに身を縮めている。
耐えられず生唾を飲み込んだ。喉が鳴る。下腹部が熱い。貪るように耳にキスを落とすと、俺の下で酷く身体を強張らせる。俺はレイザに「過去の仕返しである」と小さく囁く。
「私が以前お前に何をしたというのだ」
肩をすぼめて、目を瞑り、小さく震え、可愛らしいことに涙の滴を浮かべているレイザに息を飲む。俺の聞き間違いでなければ、彼女の声は震えていた。
俺はただ仕返しのために彼女を組強いたというのに。
自身の情緒の変化に全身が痒くなるのを耐え、レイザの顔の両脇に手をつく。相変わらず顔を逸らしたままの彼女に俺が抱いたのは、優越感でもなければ罪悪感でもない。焦燥感に近いものがあった。
体が警鐘を打つ。間違いを起こしてしまいそうな思考回路に抑情を試みるも、酔った頭と汗ばんだ身体ではよく物事も考えられない。
無性にその唇にしゃぶりつきたくなるのは、俺の理性の崩壊を告げる引き金なのか。自分では越えてはならないその境界線を耐え、一歩踏み出したいのを、目をしぱしぱさせながら堪えている。
ただ一言、お前に触れたいと言い出せない。
何故彼女に触れたいのか。何故彼女に興奮しているのか。何故口実が口実の形を為さないのか。鼓膜を刺激するレイザの些細な身動ぎに、心が揺れ動く。腰が震える。
「エイナム…」
ぎゅうと瞑っている目を開けることができない。間違いなく自分は酷い顔をしている。彼女の自分を呼ぶ声に、言葉が口先から零れ出でた。
「レイザのおっぱいが揉みたい」
とても簡単なことだった。ムードは自らの手で打ち崩し、頭がそれを理解した時には目に拳が飛び込んできた。
殴られた頬の痛みは不確かだが、彼女を酷く色目で見ていたことは確かだった。何も告げず揉んでおけば良かったなどと今更後悔しても遅い。きっと彼女とは二度と二人きりにはなれない。

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テーマ「人外ファンタジー」
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