印象形成された彼の印象は、軟らかい忠誠と生真面目な性質であった。流れるようにスムーズな動きは、チーム全体に伝達しており、征木に至っては、その外観に及ぶほど浸っていた(これは単に強い尊敬を抱いてしまったのが理由なのだろうけれど)。まるで設計されたような人型を慕う皆に連れ立ち、さも当然の如く赤色と青色を混ぜて紫色になる絵の具のように、私は彼を皆と共に支持した。
(くだらないね)
黒裂真命は寛大克つ、無意識下で仁愛の深い人だ。柔和な笑みの似合う薄い唇は想像通りに口角をあげる。胸糞悪いと感じるほどに、好感的な笑みを零す。彼の前にいると自身の感情を殺してしまいたくなる。保たれていたものが瓦解してしまいそうになるのだ。
私は良く「可愛くない奴」だ、と言われる。果たしてそれはどうだろうか?ただの劣等感なのではないだろうか?僻みか?嫉妬か?私が考えるにそのようなことを宣い、自身を顧みない個性などは個性ではなく後出しの使い回されたネタであり、実に愚かであり、愉快である。私を「可愛くない奴」に仕立て上げでもしなければ自身を可愛いと肯定できない自己嫌悪を、他人の力によって緩和させようとしているのだ。
「君は可愛いな」
血色の通った赤い唇がそのように紡いだ時、確かに私は笑みを崩した。こんな馬鹿なことがあるものか。「ご冗談を」と皮肉をたっぷりと込めて言葉を突き返した。
黒裂真命は軟らかい忠誠心を聖帝に抱く、生真面目で、柔順な性質を持った犬だ。彼は極めて犬に等しい。そんな犬に可愛いなどと言われる私は何だ?玩具か。私は彼の言葉を認めないし、信じない。
彼の周囲は常に人で絶えない。偽造した支持をする者など、私以外に見当たらない。故に、彼を慕う取り巻きより遠い場所に留まるその行動が目に止まってしまったのだろう。大衆の中の一人であった場合、私は悪目立ちすることも、彼に見つけてもらうこともできなかった。無意識下の失態であった。私は彼のために紫になろうとは思わない。ただ一人孤立した青で良い。赤に溶けたその瞬間、私は黒裂さんにとっての沢山の中の一つの存在でしかなくなるのだ。そんなもの、自己が否定されているようで耐えられない。
(何に怯えているのか)
「天瀬?」
彼の声が私の脳に急降下してくる。怖気がふわりと産毛を歩き、間をおいて彼を見る。
「難しい顔をしていたぞ」
あまり背丈に違いはないというのに、その覗き込んでくる顔に肩を竦ませる。余裕がない。
「どうして貴方はそんなに魅力的なのです」
黒裂さんは呆然として口を開けた。私も己の発言に震駭し、何かこみ上げてくる感情を呑み込んだ。
「天瀬、何か言いたいことがあるなら言ってくれ」
私が肩を震わせたのは言うまでもなかった。これは恐ろしいことだ。ただでさえ孤立した私が沢山の中の一人とは別に、黒裂さんに悩ましげな顔をさせている。これはゆゆしきことだ。
「何もありませんよ」
私はロッカーを背に頭を振った。鉄製の冷たさを服越しに感じたことにより、現実に還ったのである。ロッカールームは私と黒裂さんしかいない。私は奇妙な所懐に、唾を飲み下す。
淘汰すべき感情が滲み出した。
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