当たり障りがなく、何にも抗わない生き方こそが、最善であり平和であり平等であるという考えの下で、俺は今まで問題を起こすことなく過ごしてきた。優良な生き方は、誰にも迷惑を掛けることがない。誰に窘められることもない。指差して笑う者もいない。けれど支持する者もいない。それが代償だと言うのなら、黙って差し出そう。一つくらい、餞別をくれてやるのだ。
「そういうの、やめろよ」
俺は最良の生き方を実行中で、またそれが上手くやれているというのに、友人はそんな風に俺を否定的に見る。彼が俺を窘めた最初の人物であった。
「それって全部作りものってことだろ?」
そんな戯言を抜かされても困る。それがどうしたと言うのだ。そうすることで全てが平和で平等で最善なのだ。何を揶揄することがあるというのか。眉間に皺を寄せた友人の顔は、困惑しているようにも、憤慨を抑えているようにも映る。
最も親しいという理由で本音を語ったのが失敗だった。最も親しいイコール、自分自身のことを大方理解し、認めてくれているというワケではないのだ。友人に対する失望感より先に、諦観が生まれた。
悪かったよ、俺が悪かったとオーバーに両手を広げて反省している意を表現する。彼に俺が如何に彼自身に呆れかえっているのかを知って欲しかった。それだけの行動だった。だから、どうして思い切り平手打ちを食らう羽目になってしまったのか、わからない。
「………」
痛そうに手のひらをさする友人は、苦りきった顔をして、唇をわなわなと震わせている。同様に、じんわりと痛む頬に両手を添えた俺も戸惑いを隠し切れず、唇を震わせた。目頭が、無意識に熱い。
「お前、今までに喧嘩したことないだろ」
「そうやって、全部流してきたろ」
「何かされる前にフォローして、怒らせたら理由もなく謝って来ただろ」
目の前が霞んで、次に水泡が角膜を覆う。頬を伝わずに零れ落ち、涙は制服を生温く濡らしていく。泣いている俺を見ても尚、彼の表情には変化が表れず、旋毛から悪寒がゆっくりと下へ下へと降りていった。心のどこかでは、どうして叩かれたかわかっているような気がした。
こちらに手を伸ばしてきたかと思うと、俺の左手首を掴み引き寄せんとするので、恐怖感から彼の腕をあらん限りの力で振り払った。反射的に目を瞑っていた俺は、彼のもう一方の手が頭部へ向いていることに気が付くことができず、髪を掴まれ、結果としては引き寄せられてしまったのだ。
「オレと喧嘩してみよっか」
最善で最良で平和で平等な理想的生活は終わりを告げた。


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俺=自身=神童または速水
彼=友人=霧野または浜野


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テーマ「人外ファンタジー」
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