「やるよ」
隼総がそう言って、可愛らしくラッピングされた包み紙を寄越してきた。
ガサリと音を立てる包み紙は黄色地に茶色のリボンときている。隼総にとって僕のイメージは色なのかよと思いつつ、ちゃんと受け取る。
「何?これ」
「誕生日プレゼント」
驚いた。隼総に教えた覚えはない。粗方、星降か喜多が教えたのだろう。
胡散臭いものを見る目で見てやると「開けてみろ」との促進の言葉が掛かった。「ここ、廊下。一回開けたらかさばるでしょ」と不服を垂れつつも、僕はリボンを引っ張る。
「相変わらず小言の五月蝿い奴だ」
「うるさいなぁ。祝う気あるの?」
「い・ち・お・う」
隼総は年齢が同じ僕や安藤に対しては意外に気軽に話しかけている風に見える。そう考えると、確かに喜多と話をしている時はピリピリしている。年代的には変わらないのだが、まさか隼総が年上として敬っているとも思えない。
「リップクリーム?」
ラッピングを解くと、中から桃色のリップクリームが出てきた。女子が好き好んで買う様な代物だ。プリントされている筒の柄はさくらんぼ。
「さくらんぼ味のリップ?」
良からぬことを思いついて「チェリーボーイってかあ?僕のこと、馬鹿にしてみたかったの?」と、ニヤつきながら言うと奴は「な!」と叫んで顔を赤くした。隼総は頭を振る。
「違う。お前、いつ見ても唇ガサガサだからさ。寧ろ意外に下ネタ凄いのな」
思わず自分の唇を触った。これをガサガサと言うのか僕は知らない。右に左になぞってみるが、その擬音の感覚がわからない。
「さくらんぼ味にした意向は?」
「特にない」
正直いらないとか思ってしまった。隼総はと言えば「包み紙がかさばるなら俺が持っていく」と申し出たので「よろしく」頼むことにした。
隼総が僕に背中を見せた後、足早にトイレへと入った。誰もいない男子トイレは真っ暗で、センサーが人間を感知して明かりが灯く。
鏡に顔を近づける。唇には皺が寄ってた。
(ああ、確かに乾いている)
僕の心と同じ様に。
プレゼントをくれた隼総に「ありがとう」の一言が出ない。本当にガサついてるのは僕の心か。
右手に納められたさくらんぼがパッケージイラストであるリップを見る。それを一度塗ってみようと思った。
(後で礼を言おう…)
リップなど塗ったことがないから、一先ず下唇に弱くスライドさせる。甘い香りと共に唇に違和感を感じた。歯が浮くような違和感だ。リップのキャップを閉める。
(後で隼総に聞こう…)
「癪だなオイ。恥ずかしいなオイ」
独り言は虚しくトイレに木霊する。親指の甲でリップを拭い、制服の内ポケットに本体を忍ばせた。落としたらたまったものではない。「僕のです」と言って恥じをかくのは僕だ。
けれど、僕は少しだけ潤った気がした。
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