三人は同級生設定。
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化身使いという奴は、消費するエネルギーの燃費が悪いという。消耗した体力を回復するため必然的に食の摂取を増やし、次の持続力を蓄える。果たして、皆が皆同様とは言えない。
隼総の向かいに座る安藤と西野空は箸を止めた。三人は二つの机を横に並べ、そこに各々弁当箱を広げて昼食を共にしている。机と机の繋ぎ目に置かれた食物が目につく。売店で売られていたと思われるものだが、弁当の上に菓子パンと惣菜パンの二つが積んである。それとは別に隼総はコロッケパンを無表情で頬張っていた。
「お前、いつにも増して良く喰うな」
そう言う安藤は彼が陳列した昼食を、昼休みの時間内に消費しなかった姿を見たことがない。元より隼総が大食なのは知っている。今日も恐らくは平らげるのだろうが、パンの量が先日の二倍だ。見ているだけで胸焼けがしそうだと安藤は思う。
「これくらい喰わないと体力が保たないんだよ」
唇についた食べかすを拭う指は紅をなぞった。指に付着した紅を気にすることなく、紙パックのレモンティーを飲み干し潰す。西野空は傾いたサングラスから軽視線をパックに移った紅に落とす。
「流石にお腹出てるんじゃないの」
口結びに皺を寄せ、西野空は手先を空中で上下に動かす。腫れた腹を想像して撫でているかのようだ。
「ほら」
対して隼総は食事中だと言うのに制服のワイシャツをたくしあげた。二人はその行動に呆気にとられる。
「筋肉しかないぞ」
確かにそこには割れた腹の凹凸はあるものの平坦。
「相変わらず無駄なものがついていない…」
(けれど見せる必要はない、よね)
シャツを戻して言う。
「寮で喰えない分、ここで喰わなきゃ保持ができない」
三つ目を菓子パンに噛みついた隼総は更に「昨日の練習試合で化身二度も出現させてんだ」と続けた。 ああ、と二人は声を揃える。それが納得の溜め息かは定かではない。そして、隼総は少なくとも燃費が良い方ではないらしい。大食なワケだ。
「ていうか、フィフスって寮あんの」
「ある」
「喰いながら器用に話すね」
安藤の問いかけに対し、行儀悪く食い物をしゃぐる割に、西野空の言う通りで適当な受け答えをする。得意そうに顔を歪める姿はまるで子供だ。似つかわしくない低い声で礼を言う。
「ありがとう」
「誉めてないけど?」
西野空は両の指先を絡ませ馬鹿にした声を出す。隣の安藤は、拗ねたように口を尖らせる隼総を、口腔半開きに呆観した。
隼総英聖は、フィフスセクターより派遣されてきた天河原サッカー部に於けるシードという存在だ。簡潔に言わば監視役をしている。観るも稀な化身使いであり、世間的にも特異化は免れない。しかし、今こうしているように、現実はただの男子中学生である。監視管理報告をすることばかりに構っているワケではないのだ。フィフスセクターからの指示が渡されない試合時に、気儘放題なプレイをするのは、口には出さないものの、そちらの方が気兼ねなく楽しいからなのだろう。
「おかわりとかないし」
その言う様などは、強力な存在と言われても小首を傾げてしまいそうだ。それでも彼が大食なのは、化身を持つことをもの語る。
「“おかわり”だって、隼総が“おかわり”だって」
言葉を繰り返して愉快そうに指を差し腹を抱える。西野空は有り得ないものを見た目でけらけら笑うが、実際にいじけふてくされたような顔を見たのは初めてだった。
隼総が意外に年相応なのを知ってか知らずか、どちらにせよ二人が彼に接する様は極自然なもので、端から見れば交友関係があるように見える。何故そのような言い方をしなければいけないかと問われれば、彼らは毎日共に昼食を共にしている。ただそれだけなのだ。
「規定の量しか盛ってくれないからな」
四つ目のパンの袋を開けた。安藤は先程より呆観を強くする。隼総は鞄から二つ目のパックジュースを取り出す。安藤が吹き出した。
(スルーされた。隼総の方が一枚上手だと?)
「だからってそれは喰いすぎじゃね?」
口角をあげて安藤は言う。チラと箸の止まったまま二人の方に視線を落とす隼総は嬉しそうに目を細めた。食欲のそれだ。
「足らないんだよ。お前達、ずっと箸が止まっているようだが喰わないのか?それならお前達の弁当からもつまむぞ」
「下品な奴」
響く哄笑。

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