「俺に仕返ししないんですか」
「して欲しいんだ」
おかしいと思った。今までの霧野の行動、言動を類比し、弾き出した憶測に基づけば、即答及び、このような乗り方をしてくる筈がない。彼の目の前に立ってみても動じず、余裕を表情に浮かべて俺の目を見返すばかりだ。不安が背面を滑り落ちる。
「誰がそんな馬鹿げたことをする?」
あたかもアクションを誘発しようと考えて、俺が挑発したことを知っているかのようだった。そのニュアンスは彼自身が口にした暴言と同じく嘲笑。
「殴りたきゃ殴れば良いじゃないですか」
途端、あっけらかんとされた。
「どうして進んで仲間に非と思われる行動をとる必要がある」
霧野の目線の先から俺が外れた。彼が仲間と言うに値するチームメートの方へとだ。俺はその中に含まれていないのだろう。唇を噛んだ。相手にもしていない。
「つまり、どういうことだ」
真意を図りかねる霧野の言葉について問う。俺を見て少し目を細めた。真実であると見紛うほど秀逸な迫真の演技だ。霧野は飲んでいたスクイズボトルのボトルネックに蓋をした。
「お前に手をあげるなんて、もったいないって言ってるんだよ」
大体、そんなことしたら俺の手が痛いだろ。
「……!!」
自分の顔が驚愕と苛立ちに歪んだのがわかる。駆け上がる憤怒の感情に己が身が火照った。
霧野は俺に一瞥をくれてやると、不思議そうに眉をしかめる。フと薄く笑った。
「狩屋って、自意識過剰なんだな」
俺はどうして何も言い返せないんだ。




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