ある時ほんの気まぐれで、アフロディに一緒に遊ばないかと誘った所、驚いた顔をして黙ってしまった。多分だが、こちら側が話しかけても返答が返ってることがないので、あちらがもう話しかけてこないものと思いこんでしまったのだろう。黙られたままではもどかしいので、強引にもかれの腕を掴んで引き連れていった。 サッカー。サッカーを知らないのだろう。四歳のアフロディは上手にボールを蹴ることができない。それでも蹴ることに楽しさを感じたのか、思いの外動きを見せる。 そんなことを続けていること数日、チャンスウはアフロディが格段に上手くなっていることに気がつく。アフロディはセンスがあるのだと認識した。大して言葉は通じないのだが、サッカーは楽しいと、彼の笑顔は言っていたような気がする。 二人が楽しくサッカーをしている様子を見て、アフロディの親はホッとしていた。アフロディは引っ込み思案で甘えん坊なせいも相まって、同年代の子供はあまり親しくする事ができなかった。その上所謂我が儘とでも言うのか、おっかなびっくりしながらも主張を持っていた。それが現在では抑える所は抑えるようになったようだ。特に泣き虫だったワケでは無いが、強い口調で何かを言われると黙ってしまう子で、相手の良いように言われることもあった。それでも我慢強く負けず嫌いだったのだろうか、否定も肯定せず、相手の顔を見てだんまりを続ける。これは正直に怖いことだ。親はそんな息子が誰かと親しくしていることを心から喜んでいたのだ。 「私とあなたとの始まりはサッカーが最初で、それが最後でした」 「仕方がない。事情と言うものだよ。同時に僕らはサッカーで繋がっていたんだ」 アフロディはふと日本でのことを思い出す。FFの決勝戦で自分を完全敗北に陥れた、純情で熱い、芯の通った少年の顔だ。 「日本にとても面白い人がいてね、彼もきっとFFIアジア予選に出てくるだろう」 チャンスウはへえと言わんばかりに顔を緩ませて、話を促す。 「彼との出会いもまた、君がいたから巡り会わされたものだ」 綺麗に整った顔が均整のとれた微笑みで目を合わせてきたので、チャンスウは感嘆の息を吐いた。 |