あちらから見て、現実的に全く手の届かない距離にある不動の背中は、どこか彼が自身の存在を否定しているように映る。今にも沈まんとす陽光をバックに、小柄な彼は逆行により小ささを増す。
海が小さな波を起こし、テトラポットに打ちつけられた。断続的に水が揺れる音は思考を怠慢にさせる。
不動は学園のあった潜水艦の、内部へと続く扉と埠頭とを橋渡しする、コンクリートの地面から少しばかり空中へと飛び出した鉄製の構築物を踏んだ。不動にとっては何の気なしの行動なのだろう。事実、目座は海に落ちてしまうかもしれないと、危険を考えはするものの、その一定の距離を保ったままでいり。不動がそこから海に投じる勇気などないと信じているのだ。
両手を広げて感じてみる。目を瞑るとああ、確かに時は流れたのだなと不動は感じた。
風が、違うのだ。日の落ちが、違うのだ。潮の匂いが、違うのだ。瞼の裏が、暗いのだ。気がついていた。大分前から周りには誰もいないのだと。
「そんなに長い間、潮風を浴びていると体に悪いぞ」
純粋に心配してか、目座が不動の後方から動いた。靴底はコンクリートを感じ、不動の背後一メートル前後の位置で止まった。
身体が気だるく感じるのはそのせいなのだろうかと笑い、息遣いが聞こえる後ろへと振り返る。
「………」
「…何だ?その引きつった笑みは」
「お前、そんな顔してたんだ」
「意外に怖いのな」と呟いて不動は笑った。
目座としては腑に落ちないものがあるが、口元に手を当てて息を吐き出した。どうやら彼も笑っているようだ。

懐旧トリオ



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