何か云おうと口を開いたと思われる不動の腕を目座が掴み、手間へ引いた。鉄製の構築物からコンクリートへと踏み入る。不動をどぎまぎとさせた目座は、無言で腕を掴んだまま歩き出す。その行動に、呆気にとられた不動は、ただ引っ張られていた。 「あ、やっと来た」 傷みが激しい「帝国学園」の看板の前に、本日二度目の久しい顔があった。髪型こそ違うものの、目座と違い、彼女は多少素顔が晒されていたために不動は直ぐ思い至る。 「随分と手こずったみたいね、目座」 「ああ」 懐旧の情が噴水のように溢れる。二人のやり取りは、まるで昨日あったテレビの話をするように自然だ。何も変わっていない。やはり時間は止まっていたのだと、不動は錯覚する。 「忍」 彼女はお下げにした巻き髪を跳ねさせ、「よう、随分と酷い面だな」と言っておどけた。不動は己の顔が緩んだのがわかった。 暫時、空が堕ちる。時間は確かに経過していく。それでも、目座と小鳥遊がやるそれは以前と変わりなくて、不動はその時初めて気がついた。 (自分は時間が止まっていることにして逃げていた) 周りに誰もいなくなったのではない。周囲に人は確かにいたのだ。その輪から出ていったのは己のした逃避行。わだかまりは宙へと浮いた。再開は起こるべくして起こされた。二人が笑う。 「これからあたし達、お茶するんだけど不動も行く?」 不明瞭だった感情は恐らく亡失の悲しみで、亡失は事実ではないことが認知された今、不動につかえはなくなった。 「行く」 |