何となく足を運んだクリスタリウムで、僕が彼女を見つけたのが、そもそもの始まりだったんだろう。
何かに惹かれるように、彼女の姿を見つけた。静かに本を読んでいる彼女の、横顔から覗ける碧の瞳はとても澄んでいて、綺麗だった。
それからは、彼女の姿を見る為にクリスタリウムへと足を運ぶ毎日だった。
毎日、毎日。彼女の姿を見つける度に、どんどん強い欲求が生まれていった。

話し掛けたい…。

声が聞きたい…。

正面から顔を見たい…。

ある日、僕は決意した。彼女に声を掛けようと決めた。

「君は何時も此処に居るな」

僕はなるべく声が震えないように、彼女に声を掛けた。彼女は、ゆっくりと本から目線を上げると微笑んだ。
「えぇ。私、本が好きなの。…貴方もでしょう??貴方、よくクリスタリウムに居るのを見るわ」
それからは、それまで自分がうじうじしていたのが嘘のように、彼女と仲良くなって……恋人になっていた。



「……エース」
彼女は何時だって、前向きで優しかった。
「ユリ…、どうしたんだ?」
僕達0組が蒼龍女王暗殺の疑いをかけられてから、魔導院での僕逹の立場はとても悪くなった。
それでも、ユリは僕だけじゃなくて、0組の皆の味方で居てくれた。
彼女の優しさ半面、怖くなった。
彼女を忘れてしまうのが、怖い…。

彼女に忘れられてしまうのが、怖い…。


「又、0組が戦争に出るの…?」
「…あぁ。でも、もうすぐ…これで終わるんだ」
不安そうに言う彼女に微笑みかける。
「皆、0組の事怖がったり、悪口言ったりするのに…戦争で頼りにするのは貴方達だなんて……」
僕らの代わりに、そうやって言ってくれるユリが愛おしく思えた。
でも、これでオリエンスは統一される。
その為だよ、と言えばユリは抱きついてきた。
そっと頭を撫でれば、抱きついたままユリは言った。

「……帰って来てね」

僕は「あぁ」と頷いて、彼女にそっと口づけた。


白虎を攻め落とすと、空がまるで、血の海のように真っ赤に染まった。そして、突然と現れた禍々しい巨人。

終わったかと、思ったのにー…。

0組が魔導院に戻ると、辺りは信じられない光景と化していた。
噴水前には、多くの候補生の屍が伏している。
「まるでー…地獄だ」
僕は、屍から目を逸らして呟いた。
隣りに居るナインとクイーンも、きっとそう思っているのだろう。
「早く、中に入りましょう…」
静かにクイーンは言うと、魔導院の入り口扉に向かった。
僕も、ナインとクイーンの後に続こうと思ったのだが、微かに視界に入ってきた少女の屍に足が止まる。
「おい、何してんだよコラァ!!」
“知らない”少女の屍に、引き寄せられるかのように少女の近くへ行く僕を、ナインが咎める。
だけど。どうしてだか、僕は少女の顔を見ないといけない気がするんだー…。

瞳を閉じる事なく、淀んだ碧の瞳。
元はあんなに綺麗だったのに…。
“知らない”筈なのに、どうしてだか懐かしいと感じる。
“知らない”筈なのに、僕はこの子を知っている。
気付いたら、僕は少女を抱きしめていた。
「…ユリ、ユリ、ユリッ…!」
知らない名前が、僕の口からこぼれる。
胸に穴が穿ったような感覚。知らない感覚。
頬を伝って、少女の肩口を濡らす涙は何故?
何故、何故…。



これは 君の、君の
_______________________________________


120805       ねお

[ 4/36 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -