にやにや、とは笑われなかった。
思っていた反応とは異なり拍子抜けしてしまう。
「……よかったね」
「貴様の仕業か、本当にあの花の所業なのか……どうなんだクンミ」
凛々しい細眉に釣り上がった瞳が冷たい印象を与えている。
首元ですっきりと揃えられた髪を、ぐしゃぐしゃと乱してから
彼女は力が抜けたように一瞬微笑んだ。
「どっちだって変わらないだろ」
「変わらないって、あれは、本当に我の」
「どうだかね」
汚れのない真っ白な白衣が大きくはためいた。
「アタシから言えるのはひとつだけ。
ひとつだけ、付き合いの長い先輩に僭越ながら助言をするとすれば、 伝えることを恐ず、今度こそしっかり愛せよ












「お久しぶりです、ユリさん」
凛とした若い男の声がして顔をあげると、最近よく見知った青年が垣根の上から顔を覗かせていた。
花壇の手入れをしていた手を止め、立ち上がると顔が近づいた。
「そんなに久しかったかしら」
4日前にだって、大学に行く前にうちの前を通った彼とおしゃべりをした気がする。
しかし、ここ数日の記憶が曖昧でなんとなくそれを言うのをやめた。
「マキナくんはこれから大学?」
「あぁ、今日はゼミだけで」
彼は大袈裟なため息をついて見せた。
「実は徹夜でさっき家に帰ってシャワー浴びて出てきたとこなんです」
「大変そうね」
彼は工学系の研究をしていたか、と思い出して納得する。
「上手くいきそうな感じあったんだけどな」
「失敗して良くなるものだものね、実験も人間だってそう」
「……ユリさんはやっぱりかっこいいこと言うな」
ちょっぴり苦々しく青年は笑う。
少し強い風が吹いて、葉っぱが彼の頭に乗った。青みがかった艶のある美しい暗色に。
そっと摘んで葉を取り、私は彼の背中を叩く。


「いってらっしゃい、マキナくん」



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