夢を見ているのかと思った。
昨夜あれだけ確かめた温もりは、朝起きてみれば横にはなく、いつも通り冴えない頭で落胆を味わった。
くしゃり、と髪をかきあげてみるも、起きたばかりの状態では重力に逆らうこともなく自然に落ちてきた。
くすんだ白銀の糸を見つめて、震える指同士を絡めた。祈るように。
そういえば、妹はどうしたのかと思い出して、慌て気味にベッドを降りる。
ベッドサイドの時計を確認すれば、時刻は7時を少し過ぎたところだった。
カーディガンを羽織り、二階寝室から1階リビングダイニングルームに向かって階段を降りていく。
そこに普段とは違った衝撃。明るく柔らかい陽の光が差し込むダイニングには、明るい表情の妹と妻がいた。
朝食の支度を終えた様子に、目元がむず痒い。それを堪えて、彼女を見つめた。
コーヒーを淹れる彼女の後ろ姿は真っすぐで相変わらず美しい。
カトラリーをきっちりと並べ、こちらをマリーが振り向いた。
声をかけて、席につく。
ヨーグルトとコーヒーを手に持ったユリは、我を見ると糸目が綻ぶように咲いた。
「寝癖、いつもながら酷いですね」
彼女の口から滑り出たいつもという単語。そこに意味は無いはずだった。
しかし、何か苦いものがせり上がってくるような感覚。今は忘れていたい感覚を思い出した。



*



「お兄さま、お父様には急かさないでって伝えておくね」
「あぁ、」
少し緩めに編まれた三つ編み。
朝食の後、ユリに髪を整えられたマリーを中学校まで送り届けると、マリーはいつになく大人しい様子でいた。
少し寂しげで悲しげな笑顔をたたえ、兄に話す。
「私、当分は様子見に来ないから」
「そうしてくれると静かで助かる」
「もう……!あ…えっと……あのね、カトル」


美しい花ほど恐ろしい毒を持つものだ




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