「死んでくれ」

まるで独り言のよう。しかし、その言葉の意味は重い。
執務室には彼と私しかいないのだから、この言葉は私に向けられたものに違いなかった。
瞬きをする間もなく私はそれを受け入れる。受け容れた。
「心配はいりませんよ、准将」
ちりちり、と彼の鋭利な眼差しが刺さるよう。真っ直ぐな綺麗な瞳は、いつから淀んでしまうんだろう。
「ちゃんと綺麗に死にますから」
「それは助かるな」
そっと口元で微笑んだ彼は美しかった。
かたん、と椅子が音をたてた。
ぎゅっと後ろから座ったままの彼を抱きしめる。座っているときでもないと、抱きしめるなんてことはできないから。
「准将」
自分でもわかるくらい欲情した声。
死んでくれ、が嬉しかっただなんてきっとわかってもらえない。
しかし、彼の言葉はどんなものだって快感に通じるものである筈だし、彼のすべては私を喜ばせるためにある筈なのだ。
「馬鹿だな」
「うふ、」
頬擦りをして、目を瞑った。






狭い操縦席は嫌い。
あの人がいないところは嫌い。

「残念でしたね、魔人さん達」

がちゃり、と重々しい音が残る。
対峙した少年ふたりと少女ひとりはひどく疲弊しているように見えた。

「あなた達が何度生き返っても、准将は倒せませんよ」

少女はそれは悲しそうに私を見ていた。
大丈夫。すぐに記憶からいなくなるから。

「どうしてこんなこと無価値だと気づかないんですか!?憎しみは消えないんですよ??」

激しい悲しみを彼女は口にする。
そうだね、憎しみは消えない。だからこうやって戦っているの。

「1か0しかないのに、どうして諦められますか?あなた達こそ1より10をとる癖して」

こんなに遠いんですか、と少女は綺麗な顔を醜く歪めた。
遠いね。あんまりにも遠い。
平和を求めるあなた達と平穏を求める私達は1周まわって追いかけっこだ。

けたたましい音がして、気づいた時にはもう遅く、少年の不思議な形のレイピアが機体に穴を開けていた。
そっと、目を瞑った。過去に返ろう。





准将が優しく私の名前を呼ぶ。
あぁ、大丈夫だ。私は待っていられる。
「……いたぃなぁ」
暖かい手が頬に触れた気がして目を開こうとしたけれど、瞼が重くて持ち上がらなかった。じんわり、と熱が伝わる。
「ユリ……頑張ったな」
「じゅん……しょ、」
好き、好き大好き。
想いと共に口から溢れた血を彼が拭ってくれる。
ぬるり、舌が唇を割って入ってきた。応えることも出来ずに、ただなされるがままに私は彼の生命を感じた。

愛して、



160516

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