その美しい指が、青みがかった白いなめらかな手が、仮面を取り外すためにかけられた。
美しい彼女の顔を覆う、醜い獣を象ったそれ。
テーブルに置かれたそれは禍々しさが増し、こちらをただ無言で見つめている。それに光はない。
それは光を吸うものであった。
彼女の顔が好き。ぱっちりと、気に食わない表情で私を見る大きな瞳。すっと通った鼻に、花弁のような唇。
まるでビスクドールのように愛らしく精緻だ。
折れそうなその首も、少し開かれた肩も、少女のような背中も。もちろん、美しくしなやかな手足も全てが好き。
そろそろとベッドに近づいてきた彼女は、満面の笑みをうかべて待つ私の首にしがみついた。
ぎゅう、と一気に密着してあたたかさが胸のなかいっぱいに広がっていく。まるで黄色い光だ。
彼女の髪を梳き、右の耳朶を食む。
淡雪のような身体を抱き直すと苦いキスをひとつ彼女に捧げた。その脚はしっかりとこの身を挟んで離さない。彼女は私を離さない。
少し身体を後ろに傾けて、彼女の足の指と手を繋ぐ。驚いて彼女があげた声がとても可愛らしくて笑ってしまう。
拗ねたように睨む彼女は私に酸っぱいキスをひとつ与えた。
べろり、と下から上へと左頬を舐め上げられた。こそばゆい。
じんじんと足先が熱い。
私の短く刈った髪━━女らしくない頭を撫で、私の名前を呼んだ。もっと呼んでほしい。ひとつ、ふたつ、みっつ。
彼女の名前に花を添えると、泣きそうな顔をしてばかと言う。
サイアクでないのなら重畳。
彼女の手をとり、小さな色付きの良い唇に甘いキスを落とす。
なんて幸せなんだろう、私。こんな幸薄の世でひとつの救い。今この瞬間に彼女を独占できるのだ。かすかな希望を。
それに、私は彼女を忘れない。なんて過ぎた僥倖だ。この蜜月のことは忘れたとしても、最期までこの人のことを想っていられる。
芽はそう簡単には引き抜かれない。
では私はどうなる、と彼女は哀しそうに言う。彼女は忘れるだろう。
もう人ならざるものである。このまま永くを過ぎ、私のことを忘れる前に私を大切に想ってくれた心をなくすのだ。それは決められた運命。
可愛らしい赤色の唇は弱音を吐き、諦めを紡いだ。
ほろほろと流れる冷たい滴がどちらのものかわからないまま塩辛いキスをした。

「ミリテスに光を」

服の上から右胸に口づけ、彼女を抱きしめたまま横になった。
はやくこの寒い春が明けるといいなと彼女が言った。


160207 ねお


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