「お久しぶりですね」
大きな窓から、外の雪原を眺めていた私は、待ち望んでいた貴方の登場に、微笑んで振り向く。
ふわり、と横に束ねた髪が微かに揺れた。
数ヶ月ぶりに見る、白い貴方の姿に思わず笑みが崩れそうになるのを、必死に堪えた。

「…見ない内に変わったな」

もう貴方を見ただけで、こんなにも苦しいのに、貴方から向けられる視線は以前のものではない。
ただ、悲しくて冷たい眼差しだった。
「変わったかも、知れませんね」
自虐的に笑うが、貴方は変わらず無表情だった。
自分が置かれている状況は、重々承知しているつもりだ。分かっている筈なんだ。
私は、元帥により朱雀に密偵として入り込んでいた。そこで目にした“世界”は、理解し難いものでもあった。幼い少年少女を、戦争の道具として扱うと云う姿勢は、未だに理解出来ない。
だが、私は知ってしまったんだ。朱雀と云う国の豊かさを。あの国の民が皆、私達白虎民の有り様を知れば、共存していけるんじゃないかってー…
     思ってしまったんだ。


「で、貴様はどうして欲しいんだ?」

嗚呼、伝わるかな?

貴方とは、戦いたくないし、自分の気持ちを裏切りたくもない。


「カトル」

ぴくり、と僅かに貴方の眉が動いた。

「貴方の手で、殺して頂けませんか」



本当は貴方と一緒に逃げたかったの







彼女の首に手を掛けて、頭に浮かぶのは愛おしい思い出ばかりだった。


にこにこ、とまるで其処だけ大輪の花が咲いたようだった。美しい彼女は、強かった。むしろ、強いからこそ美しかったのかも、しれないがー…。
そんな彼女と初めて会ったのは、食堂での事。軍の中では、随分と有名だった彼女と初めて会った。
心優しい彼女の自然な笑顔に、気がついたら惹かれていた。それからは、彼女が自分の事を気にかけてくれるようになり、とても嬉しく思った。
戦場に立てば、誰よりも穢れを負う自分と、花のような彼女が“同じ”だとわかって胸が酷く痛んだ。
自分は軍人なのだと云う誓いと、彼女が幸せになってくれさえすればいいという矛盾。それが、とても怖い。













 。

彼女の首に掛けていた手は、力を込める事が出来ずに震えた。震えた手を、彼女の首から離して、そのまま抱きしめる。強く。

「…最期まで、共に」


そっと、彼女の腕が応えるように我の背にまわった。



太陽が笑った

彼女は嬉しそうに笑った。

130210      ねお


[ 9/36 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -