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fate/GO6章楽しかったよ〜って思って書こうと思ったんだけど、相手をどちらにするかで選べなくって選べなくって

 潰れた鉛筆を見て、一日過した。世界の終りが始まっていた。
 せめても気休めに己が城の執務室の書棚に視線をやる。変わり映えせず、そこには十年来の記録書類が静かに収められている。何も、変わりはない。
 しかし、それがアグラヴェインを安心させてくれるということはない。そんなことで平常心を取り戻せたならば、こうやって鉛筆の先など眺めているものか!
 そもそも、まず鉛筆なぞを手に取っている。それ自体が異常に他ならないのだ。

 二日前である。アグラヴェインは固い机の上で意識を浮上させた。
 これは彼にしてみればままあることだった。彼の周りは何が楽しいのか(もはや故意だとしか思えないほどには)、とにかく問題を起こすことを仕事と考えている節でもあるがごとく、アグラヴェインのデスクに書類を積もらせる。無論、デスクに置かれた以上、処理するのはデスクの持ち主のアグラヴェインなれば、こうしてデスクを枕にすることもしばしばあった。
 が、木目調の枕は見慣れないものだった。おまけに積もる書類の連峰も、ない。平野である。そして端にはナイフとフォークの入った小箱さえあった。
 ファミレス。
 アグラヴェインの灰色の脳みそは、ものの数秒で正答を導き出した。窓からアグラヴェインを仄かに照らす太陽は淡い。朝日。それも早い時間で、曇天。
 テーブルの端にちょこんと立つ伝票を摘まむとアグラヴェインは脇にあった鞄を取って立ち上がった。とにもかくにも会計を済ませて、店を出ねば。
 なぜファミレスなどで寝ているのか分からないが、なぜファミレスなどで寝るはめになったかは、アグラヴェインの重い頭が雄弁に語っていた。二日酔いになるほど飲むなんて、初めてのことだ。大学の創立記念パーティー。ちょうど100周年を迎え、アグラヴェインのような出資者らも呼ばれ、シャンパンを振る舞われ、申し訳程度にグラスを持っていた。そうして、代理としてアグラヴェインを遣わしたはずのアルトリア自身が現れ……
 記憶を辿りながら、レジカウンターまでふらつく足を進める。プラスチックの呼び鈴を鳴らせば、大儀そうに店員が現れた。怪訝そうにアグラヴェインをじろじろと見る彼の目は、己の醜態を戒めるようでいっそ心地よかった。
「420円になります」
 二人分のドリンクバー代。やはり誰かとこの店にやってきてのは確かのようだが、その誰かがわからなくては埒が明かない。
 眉間にしわを寄せながら、財布を取り出す。そして、アグラヴェインは驚きに身を固めた。ついでに、アグラヴェインの財布の中を垣間見てしまった店員も。
 そこには、ファミレスで朝を迎えてしまうような人間が持つにはあまりにも不釣り合いな札束が、鎮座ましましていた。

 混乱を極めたアグラヴェインであったが、まっすぐに家に帰ることはできた。降りたこともない駅のファミレスは、店を出れば朝から目に痛い歓楽街の看板が跋扈しおり、やはり身に覚えがない。
 あるいはこの駅を最寄り駅とする人物とこの店へ雪崩れ込んだのかもしれないが、生憎該当する知人はいない。となればますます謎は深まるばかりである。
 いきずりの相手なら、それはむしろ好都合であった。だが、腑に落ちないことは財布に残された偉人達の肖像である。
 アグラヴェインにしてみれば、そのまませしめてしめしめと懐に入れるには端金と言わざるを得ないが、あくまで彼の口座に眠る資産と比べれば、である。何の理由もなしに他人から貰うにはいささか恐ろしい額であることは確かだった。いや、何かしらの理由があったかもしれないことに半ばアグラヴェインは気づきだしていた。歩き出してから、電車の乗り継ぎ、階段の上がり下がり、とにかく何をするにも、アグラヴェインの〈そこ〉は、昨夜何があったかを雄弁に語っていたからである。




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