KARAMATY(おそ松さん)パロディです。元ネタの影は辛うじてあります。
・増えすぎたゴミと環境破壊は科学技術の進歩を上回った。人間は地球を捨て、ロボットと共に宇宙へ逃げた。さながら、ノアの箱舟である。
・わたしは宇宙進出500年を記念して地球の環境調査に派遣された。この星を調査し、そして「緑」を見つけるのだ。
・離陸した船のエンジンに巻き上げられた粉塵が収まると、目に付いたのはどこまでも続く「ビル」群だった。地球にまだ人類のいた頃のメモリーと照らし合わせると、わたしが降り立った場所は恐らくトウキョウであると思われた。
・しかし、そのビル群もよくよく目を凝らせば、うず高く積まれたゴミの山であることがわかった。圧縮したゴミのブロックが積まれて、街が出来ているのだ。
・数百年前のゴミの建築物が風化せずに残っていることは考えにくい。知的生命体、少なくともこれを気付きあげた何者かがいる(あるいは「いた」)ことは明白であった。
・わたしはその何者かに気を配りつつ、探索を開始した。未知の存在は必ずしも好意的ではない。
・しかし、その何者かはすぐに見つかった。ご丁寧にもわたしの目の前に自ら出て来たのである。
・「来てくれて嬉しい。俺は君たち人間のためにゴミを処理し続けてきた」
・ニッと頬の筋肉を吊り上げてその男は笑った。機械的な表情である。彼が数百年前の地球産の人型ロボットであることはすぐに知れた。そもそも、彼の腹部を見れば、それは火を見るよりも明らかだった。
・顔や手足は人間を精巧に模している。数世紀前の産物とはいえ、宇宙にのり出せるほどの科学力を有していたのだからこれは不思議ではない。ただ、彼の腹部だけが、子供の工作のように、切って貼ったように機械が取り付けられているのだ。
・「これは処理機だ。中にゴミを入れれば、圧縮して整形できる」彼は実演してくれた。腹部を彼の着衣ごとオーブンのように開閉する様は、奇妙な光景である。
・「これは俺がつくった街だ。ただゴミを積み上げるのじゃ、味気ないからな。帰ってきた人間達も、アートが迎えてくれた方が嬉しいに決まってる」
・ゴミの処理という点においては、むしろゴミが街を模っていては邪魔になる。本末転倒だが…… 彼はその言動同様、思考も合理的ではなく理想主義を取るらしい。
・話を聞くに、彼は日がな一日作業をしているらしい。巨大なゴミの摩天楼は彼の労働の賜物なのだ。わたしは感嘆と憐憫を抱いた。
・「昔は処理ロボットも沢山いたんだ。でも今はもう、俺だけだ」
・地球唯一の住人は、名をからまつと言った。
・いつまでも着陸地点にとどまっているわけには行かない。わたしは付近を探索すべく歩き出したが、からまつはそわそわと道中ゴミを処理している体を取りながらも、わたしの後をついてきた。
・わたしは推測する。彼と同じ立場のロボットならば。そもそも人間のために作られたのがロボットである。道具として、人の役に立ちたいに違いないのだ。
・わたしは振り返り、からまつを探索に誘った。
・からまつは破顔して、それからキザに表情を作ってからそれを引き受けた。
・道中、からまつはあのビルは云々、そのビルは云々と解説をした。からまつの以前の持ち主は独特の感性を持っていたらしく、彼の表現は写実的ではなく、一筋縄ではいかない。わたしは適当に相槌を打つことにした。
・からまつは「ねぐら」から持ってきたバッテリーを引っ張りながら歩いた。雲一つ無くかんかんと照り付ける太陽光電力を賄えるのだろうが、量はたかが知れている。手持ちのバッテリーの他にも、ゴミの山から代用品になりそうなものをからまつはちょくちょくと拾っていた。
・夜、休む時、からまつはそのバッテリーらを首の裏の挿入口に器用に繋いで、スリープモードに入った。
・バッテリーの残量が減るにつれ、からまつはおとなしくなった。
………
・ついに探索最終日をムービー迎えた。ここから真っ直ぐに帰れば帰還の船の到着に間に合う計算である。本来なら地球全土を観測したいが、体が保たないのだ。なので、惑星の周囲を観測しつつ回り続ける母船に、たびたび戻る必要があった。
・戻る道すがら、わたしはからまつに尋ねた。この打ち捨てられたゴミの惑星を出て、本来我々が仕えるべき人間の元へ、共に行かないかと。
・初めて出会った時の溌剌さが失せたからまつは空を見、そしてわたしを見た。
「お前はロボットだな。俺と同じ。人間じゃないんだな」
──そうだ。どのような環境に変貌したかも分からぬところへ、わざわざ人間は行かない。そういう場合の為にこそ、我々ロボットがいるんじゃあないか。
──本来ならそれこそキャタピラのついた環境調査にのみ特化したロボットが派遣されるはずだったが、万一を踏まえて、わたしのような人型が遣わされたんだ。君のような、生き残りに敵意のないことを示すため。
──だから、共に帰らないか? 人間のもとへ。わたしたちを、君を必要としてくれる者のもとへ。
「いやだ。あんたは人間じゃない。だから俺はあんたに従わないぞ。俺の主人はこの星に住んでた人間たちなんだ」
──だから、その人間達の元へ行こうと言ってるんじゃないか。
・からまつは突如として突進してきた。いつの間に手に入れたのか(いいや、そこらじゅうがゴミだらけなのだ。いくらでも拾えるだろう)手に錆びて赤茶色になった鉄パイプを握っていた。からまつは振り被る。
・わたしは身をかわしつつ、腕を銃身に変えた。標準をからまつに合わせる。「直ちに攻撃をやめなさい。危害を加える意志を捨てないならば、あなたを破壊する」テープのような紋切りの言葉がわたしの口から出た。
・人間ではない、ただのロボットならばこのような警告は本来いらないのだ。生命のない死んだ惑星にいる「モノ」など、即座に破壊して構わないのだ。
・「ロボットは、必要なんだ。バッテリーが手に入る。もう、底が見えてるんだ。俺には必要なんだ。しかもあんたは他の奴らとは違う、最新型だ。たくさん、バッテリーを持ってるな」
「なあ、俺はあんたが必要だよ」
こうしてわたしの地球探索はくそみそな結果に終わった。
箇条書きですら儘ならなくて震えました。
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