「「つーばきっ」」
「あ」

 大学の玄関の門を抜けようとしたら見知った顔が二つ、ひょっこりと顔を覗かせた。少し小走りに近づくと二人ともヘラりと笑って同じように少しだけ大きな手のひらで頭を交互に撫でてきた。

「「おかえり」」

 これまた同じタイミングでそう言われてほっこりと温まる。ただいまです。と答えると二人とも嬉しそうに笑った。


 狛犬の丹さんとガミさんは両方阿形。互いに吽形がいた、らしい。お互い覚えていないぐらい昔のことだと声を揃えて言っていた。なぜだかあまり聞いてはいけないような気がして、今でもその話題については触れられない。

「椿、あーんして」

 言われた通りに歩きながら口をパカリと開く。ガミさんはポケットからあめ玉を取り出して袋を破ってから俺の口に丸い飴玉を放り込んだ。爽やかなソーダの風味か広がって顔が綻ぶ。次いで今日は楽しかった?と聞かれて、今日はお昼にカツ丼食べましたと伝えるとガミさんは何がおかしいのか小さく笑った。丹さんは俺にも頂戴とガミさんのポケットに手を伸ばした。

「ちょっとなにしてんの丹さん」
「ちょーだい」
「椿の分しかないってば」

 ガミさんは少しだけ飛びのいてからポケットに手を突っ込んでそう言い放った。それに丹さんはちぇっと口を尖らせて頭の後ろで両手を組んだ。
 丹さんは俺の右側に、ガミさんは左側にいる。今日は昨日とは逆になっている。

「今日は、ガミさんがジャンケンに勝ったんですか?」
「ん〜…そ…」
「そうなんだよ!10回もアイコだったのに!!11回目でガミがパー出したばっかりに!」

 丹さんはガミさんの言葉を遮り俺にそう訴えてきた。俺違和感ハンパない今。と、本当に疲れたような顔をしてそう言った。

 阿形は神社に入ってすぐ右側に位置する。だから、今俺の左側にいるのが阿吽像で言えば阿形に当たるから居心地がいいらしく、俺を迎えに来る途中にジャンケンで決めていると言っていた。位置が体調の変化を及ぼすのかは分からないがいつも疲れているような気がする。
 俺は立ち止まってからギュッと丹さんの服の裾を引っ張る。何事かと振り向いた丹さんの両手をぎゅうぎゅうと手のひらに招き入れる。暫く念を送るように握っていたけど丹さんもガミさんも一言も喋らないので、どんな顔をしているのか怖くてみれなくてソッと手を離して、ごめんなさいと謝った。

「あ…の……なんていうか…俺に…力があるか分からないけど…少しでも…わけられるかなって…」

 もう一度謝罪を口にして夕日に照らされたアスファルトに視線を落とす。なんだか恥ずかしさが込み上げてきた。すると、二人がいきなり吹き出した。それも同じタイミングで。一人残された俺は焦って腹を抱えて笑う二人を交互に見ることしかできなかった。

「おっまえ本当かーいーなぁ」

 丹さんが感心したように頷きながら俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ぶっはは…なんていうかさ…位置なんてそんな関係ないんだけどさ…俺ら」

 え、と首をかしげた俺にガミさんが飴が入っている俺の膨れた頬をつついてからまた歩みを始めた。それに習って丹さんも歩みを始めたので自分も急いで歩く。口に入っている飴をガリリと噛んで飲み込んだ。

「俺らは神様の護り神でしょ、神様を護るのがお仕事なの。だからどんな形でも護れればいーの。ただね、本来あるべき位置で神様を護りたいわけ」
「阿形はねどう足掻いたって阿形のまま。吽形にはなれないからさ」

 阿形である誇りっていうの?そんなもん。と、ガミさんは言葉を紡いで、それに丹さんも頷いた。

「まあ、俺らには吽形がいないし…護れる神様もいないんだけどさ」
「あ…」

 ガミさんの言葉にどうやって声をかけたらいいのか分からなくて口を開いてまた閉じて気の聞いたことの一つも言えない自分の唇が憎くて、下唇を噛んだ。

「つーばきー、そーんな顔する必要なんかないんだぜー?」

 右側からそんな声が聞こえてアスファルトを睨んでいた顔をあげると丹さんとガミさんが目の前に立ちはだかっていて足を止めた。二人は楽しそうにニッと笑うと俺の手をそれぞれが手のひらに乗せる。

「俺らは椿に生かされてる…吽形もいない護るべき神様もいない俺らは生きてたけど…死んでるみたいだった」
「力がないからずっと仮の姿でしか自分を保てなかった」
「椿は…俺らを蘇らせてくれたんだよ」

 二人の手のひらに接している自分の手のひらがジンワリと熱をもつ。二人の瞳に吸い込まれそうで動けない。

「椿を護らせてよ…」
「お仕事…させてよね」

 そう呟いて、ガミさんは手の甲に唇を押し付けて、丹さんは手の甲に舌を這わしてきた。
 ギシリと固まった俺をそのままにガミさんが叫ぶ。

「なっにしてんの丹さん!!」
「ギャハー椿が旨そうなのがわりーんだよ」
「そーいうこと言ってんじゃないよっ」

 手を掴んだまま喧嘩を始めた二人に、もう、どうすればいいのか分からなくなる。

「あっの…俺…どうしたら」

 そう言った俺に丹さんとガミさんは喧嘩をやめて笑った。ギュウッと手を握られて引っ張られる。

「俺らの真ん中にいればいーよ」
「そーそ」

 二人に同時に引っ張られて足をもつれさせながらも着いていく。丹さんとガミさんの後ろ頭を見つめながら声をはる。

「でもっ…俺っ…丹さんとガミさんに護られるだけじゃ嫌ッス」
「「?」」
「俺も二人のこと護りたいッス…俺は神様なんかじゃないッスけど…」

 俺も男です。と、意気込んで言うと同時に振り返った丹さんとガミさんがポカンとした顔を向けてきてすぐに二人で顔を見合わせた。

「へへ…んーじゃ、神様にでも甘えちゃおうかな、ねぇガミ?」
「そうですねってことで…」

 同じように歯を出して笑った二人は同時に手を離した。と思ったら目の前から二人が消えた。辺りはいつの間にか薄暗くなっていて目を凝らすが全く見当たらない。

「え…丹さん…ガミさん?」

 あまりにもいきなりすぎて頭が働かず、その場で首だけを回す。すると足元に何かが触れる。足元を見ると二匹の小型犬。

「?!」
「椿っ椿っ抱っこして抱っこ」
「ええっ」

 黒い毛並みの犬から丹さんの声が聞こえた。その隣には白い犬。まさか…。

「丹さんに…ガミさん?」
「わんわーん…早く早くー」

 黒色の犬は脛に頭を擦り付けてはこちらを見上げて笑って(いるように見えた)尻尾をふった。こっちが丹さんだ。しゃがんでから丹さんを抱き抱えようとしたら白色の犬、ガミさんが先に丹さんを押し退けて俺の腕によじ登ってきた。

「なっにしてんだー!」

 負けじと丹さんもよじ登ってきて二人(二匹?)して腕の中に収まった。毛並みがふわふわしていて気持ちいい。少しだけ重いけれど河童荘まで抱えられないわけではない。暫く両手両足で互いを攻撃していた二人に落ちちゃうのでやめてくださいと言うと大人しくなった。
 河童荘まではあと少し。


(0306)
やっと出せました。狛犬な丹さんガミさん(^^)
しかし阿形の狛犬はメスで獅子と置かれることが多いらしいですね。でもまあ仮(?)の姿はわんこで。小型犬を想像してもらえたら(^^)私的にポメラニアンとかロングコートチワワとかパピヨンとか…ふわっふわの…

壱汰
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