なんだかいつもより布団の中が温かいからか酷く眠くて、目を開けるのが面倒だった。瞼越しに光が少しだけ差し込んでいるからもう朝は明けているらしい。でも携帯のアラームは鳴らないようで布団を手繰り寄せて、妙に温かい何かに抱き付く。とにかく身体が鉛みたいに重たくて布団に沈む感覚に襲われる。寒いのに…熱い。怠いのにどこか気持ちがいい。そんな変な感覚だった。温かいものに擦りよると優しく頭を撫でられた。ふわふわして、まるで雲の上にいるみたいだ。と、そんなことを考えて椿はガバリと上体を起こした。

「っっっっ?!?!」

 声にならない叫びをあげ椿は同じ布団で眠る人物を見詰める。見たことのない顔だということまでは理解できるが、なぜここにいるのか、一緒に布団に入っているのかさっぱりわからない。椿は辺りをキョロキョロ見渡すがシンと静まり返った自分の部屋は自分と見知らぬ人間とその寝息しかない。
 いよいよ頭が痛くなってきたこの状況を打破するように隣の人物がモゾリと動いた。気だるげに開いた瞳がこちらに向く。

「……あ、寝てた」

 色素の薄い短髪をかきながら上体を起こしてズイッと顔を近づけられる。睫毛が長い。そう言えば王子に初めて会った時も睫毛が長いなって思ったっけ。そんなことを一瞬考えていたら顎をすくわれた。

「そういえば…ごちそうさま、」

 なんのことか全く分からず、喉につっかえた言葉が出てこなくて息苦しくなる。

「じゃなかった…いただきます…だ」

 眠そうな瞳が迫ってきて顔を一気にそむける。が、意外にも素早くてそのまま唇を塞がれた。するとドッと疲れと眩暈が襲ってきてガクンと首が後ろに反れる。床に後頭部を打ち付けると一瞬過ぎったイメージは只のイメージに終わったようで後頭部には優しく手を添えられて支えられた。恐る恐る目を開けると至近距離にはやはり眠そうな瞳の男性。優しい手つきで布団へと寝かされる。

「あの…」
「熱…ひいたみたい」
「?」
「うなされてたから、熱もあったし…とにかく眠りなよ」

 肩肘をついて優しく前髪を鋤かれる。こんな状況絶対に眠れる筈なんかないのに瞼が重い。
 俺も眠たいんだ。色素の薄いその男性はそう言って欠伸を一つして、そのまま目を閉じた。それを見ていた自分は完璧に眠りの世界に落ちてしまった。




「…っ」

 携帯が頭の上で鳴り始めて手探りで携帯を探し布団の中に招き入れ、ボタンを押す。そして布団の外へと放って寝返りを打つ。やけに温かい何かに身を寄せる。

「………あ!!」

 布団から上体を起こすと目の前に現れたのはやっぱり先程の色素の薄い睫毛の長い男性で。夢なんかじゃなかったと布団からズリズリと離れる。すると、ガシリと腕をひかれてバランスを崩して前のめりにその人の上に倒れてしまった。

「んー……あれ……君って意外と…大胆な子なんだね」

 気だるそうに目を開け欠伸をしながらそんなことを呟く。違いますこれはあなたが手を引っ張ったからで、というかあなたは誰なんですか。ところどころ訳の分からないことを口走った気もするが、伝えたいことを一気に伝える。すると、ああそっか。とまた気だるげに呟いた後、掴んでいた手を離してもらった。

「えー…っと…そうだね……俺は…夢魔…かなあ」
「夢魔っていうと……えっと…」
「獏とも言うかな…どっちかっていうと獏…うん…」

 自分の言ったことに首を傾げながらもう一度大きな欠伸をした。そういえば、王子もヴァンパイアと夢魔だってたしか世良さんが教えてくれたような。

「バッキーダメじゃないの…そんなにすぐに男を部屋にあげちゃうなんて」

 いきなり思い浮かべた人物の声が聞こえて、すぐに後ろを振り向く。やれやれといった風に首を振り、王子が壁に凭れてこちらを見ていた。

「王子…?」
「あれ、風邪は治ったの?」

 いきなりそんなことを言われて首を捻っていると、王子が俺の隣にいる人物を見て、ああ、食べてもらったんだ。と呟いた。食べてもらった?何を?と隣の人物を見つめると、眠いのか無表情なのか分からない顔を向けられた。

「あ…の…えっと…獏さん…」
「岩淵」
「え…ああ…えっと…岩淵さんは……獏って言ってたけど…その…獏って…あの中国の…」

 俺の頭では獏といえば中国から伝わったゾウみたいなアリクイみたいな架空の生き物で人の夢を食べる…ということしか分からない。岩淵さんはのそりと布団から起き上がって台所に向かった。暫く呆けていると帰ってきた岩淵さんにペットボトルを投げられた。昨日買っていた水だ。よく分からず岩淵さんと王子を交互に見ていたが王子が飲めってことじゃない?と呟いた。岩淵さんはまた俺の布団に入ってきて横になった。

「ちょっと、なに寝てんのさ」
「ところで…王子はなんでここに?」

 ペットボトルを開けて水を少しだけ喉に流し込むと身体が満たされる感覚が気持ちいい。頭が少しずつスッキリしてきた。が、分からない状況は続いているわけで、一番状況が説明できそうな王子を見つめる。

「僕?ああ、君が昨晩どうも魘されててね気になって今きたんだよ。風邪だったんじゃない?僕は耳がいいからね…まあ、今もう昼なんだけど」
「はあ…」
「生憎僕には病魔を食べるっていう趣味は無いし、彼に託したんだよ。お腹すいてたみたいで勝手に上がりこむ気配がしたからね。だから僕は結界いが緩んだ今来てみたんだ」

 別の意味で食べられていないかね。と、王子は口元を隠して試す様に岩淵さんを見た。結界?結界とはこの前持田さんが張っていたという結界だろうか。また分からないことが多くて首を傾げると、隣の岩淵さんが俺の腰に腕をまわしてきた。スースーと寝息が聞こえる。

「獏なのに狸寝入りでもする気かい?…向こうの館の人ってガツガツしてるから僕は苦手だよ」
「はあ…」
「ま、今日は大丈夫そうだし…彼、お腹一杯になってるからもう結界も薄れてるしね…時期に皆も来ると思うし、君も大学行かないとね」

 王子はにっこりと笑って消えてしまった。何もかも分からないまま王子は消えてしまったけど、一番よく分かったのは今が午後で大学は午前からで、自分は授業をサボってしまったということだけだった。





(120228)
岩淵さんを出したかったんですハイ。
岩淵さんは夢魔っていうよりも獏で夢を食べるんですが、病魔も食べます大好物ですってわけで。勝手に。
何気に王子と親戚のようなそんな話だったりして…。睫毛か←
椿が風邪ひいたのをいち早く察知して持田さん同様に部屋に結界張ってたって話です。ブチバキとか好きなんですよ。岩淵さんのキャラが分からないんですけども!岩淵さんは持田さん達と一緒の西館の住人です。西館の人は結界すぐ張りたがるっていう…。
また出したいです。たぶん。

壱汰
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