気が付いた時には服も着てベッドへとうつぶせに寝転がっていた。いつ帰ったのかもどうやってここに辿り着いたのか、宮野がどうしたのかも分からなかった。分かったのは誰かがこの部屋にいるということだけで、ズキズキと痛む頭を擦りながら椿は起き上がった。

「ほら、」
「いたっ」

 後頭部に何かがぶつけられてベッドの上に落ちた。クラクラとする頭を再度擦って飛んできた方へと視線を向ける。

「水…飲めよ」
「…あ」

 壁に凭れて此方に目を向ける人物に心臓が馬鹿みたいに活発化する。身体中の血液が沸騰したのかと思うぐらい、身体中が熱い。なんで、どうして。疑問符ばかりが浮かんで、目の前がチカチカと眩い。

「なに、なんかあったの、お前ちょっと酔ってんだろ。遅く帰ったらお前俺の部屋の前に座ってるし…階間違えてんだろ馬鹿」

 心地いい声音に無性に泣きたくなる。声を出そうにも喉が焼け付くように熱い。鼻がツンとして痛い。宮野とする前、お酒を飲んだ。弱いわけでもないのに変に酔った覚えがある。そのあと、宮野とことに及んで、妙に冷静になって宮野との関係を自分から切った。お酒に酔った理由を宮野は知っていたのだろうか。自分でも分からなかった。赤崎が今、目の前に居なければ、気づかなかったのに。
 そこまで考えて受け取ったペットボトルを掴んで水を流し込む。半分より少なめに残っていた水を飲み干して俯くといつの間にかぼろぼろと目から溢れていた。一瞬、水?なんてベタな勘違いをして、すぐ涙だと分かった。

「すっ…みませ…」
「は……泣いてんの?」

 勘弁してくれよと赤崎は頭をかいて溜め息をついた。それに椿は肩を震わせてベッドから急いで飛び降りる。そして本当にすみませんでしたと赤崎の横をすり抜けようとして、グッと押し戻される。何が起きたか分からず椿は掴まれた肩を瞬きして見つめた。

「悪い…」

 言い過ぎたと赤崎は椿の肩をグッと掴んだまま額を甲につけ謝った。

「ちょっと…イライラしてて」
「ザキさん…?」
「彼女と喧嘩…お前知ってんだろ?…見た目はああだけど…気が強くて…ホント困る」

 ザキさんの彼女さんには宮野と世良さん達と一緒にいるときに偶然会った。世良さんや清さん達に囲まれてあまりよくは見えなかった気がするけど、ふわふわとした雰囲気でスタイルも良くて…きっと頭も良いんだと感じた。皆は赤崎には勿体無いと言っていたけれど、ザキさんにお似合いだと思った。彼女さんを皆が囲んでいるとき、宮野が俺の前に立ちはだかってくれてた気がする。今思うとあれは宮野の優しさだと、どうして気が付かなかったんだろう。

「まあ俺が悪いんだけどな」

 そう言って困ったように笑った赤崎を見て椿は、好きなんだな彼女のことがと、その感情が自分に向くことは絶対にないと胸が痛んだが、どこかふっ切れたようなそんな清々しい気さえした。さっきまで泣いていたからか、それとも違う感情がそうさせたのか、頬に涙が伝った。椿はすぐにそれをぬぐった。

「俺も、喧嘩…みたいなことしちゃって…恋人…みたいな人と」

 そんな椿の言葉に赤崎は一瞬驚いた顔をして、お前がそんな話しするなんて珍しいなと言って笑った。それだけでも自分に向けられたことが十分に嬉しくて胸が一杯になる。
 明日はオフだから、彼女の所に泊まると誰かが言っていた。これが…自分がお酒に酔った理由だろう。しかし、よく考えたら赤崎は寮にいる。椿はいつもならこんなこと聞けないし聞きたくないと耳を塞ぐだろう質問を自分から赤崎に投げ掛けた。

「あの…彼女さんの所に泊まるんじゃ」
「…」

 赤崎の眉がピクリと上がり、あ、しまった怒られると椿はギュウッと目をつぶる。暫くしてもなにもされず、不思議に思い目を開くと訪れたのは赤崎の怒声ではなく、頬の痛みと赤崎の曖昧な笑顔だった。

「はっ…おっまえ……ホントに天然…空気読めよな、」
「ひぇっ…はの…ひゃきひゃん?」

 頬を両手で引っ張られ伸ばされたまま赤崎を見つめる。すると何がおかしいのか腹を抱えて笑い始め、椿はつねられた頬を撫でる。つねられたからなのかそれとも赤崎に触られたからか、熱いと思った。

「はは…あーはらいてえ、…っし、酒…付き合えよ」
「へ…あ……は…はい!」

 お互い参ったなと笑いすぎて出た涙を拭った赤崎の顔にときめいた、なんて言えやしない。
 これ以上赤崎と居れば好きが溢れてしまいそうで逃げ出したいと思った。それでも、一緒にいられることが幸せだとも思った。赤崎が望むなら、先輩を純粋に慕う後輩になろうとそう思った。その時はそうなれると思っていた。自分が器用じゃないなんて自分が一番知っていたと思っていたのに。



序章は突然に



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(111214)
もはやもうヤンデレにも程がある椿です。お待たせしてすみません本当に。しかも話がそんなに進んでいないという。
赤崎との関係がいまから始まりますよってことで。序章で。
いまから拗れに拗れます。
宮野も出ます。椿に宮ちゃん呼びさせます。←え
赤崎はあまり人に彼女の話はしません。茶化されるのもですが、基本信じてないんです。でも今回のことから椿にそういう話もし始めて…ていうのが次のお話です。
まだまだ続きますがどうぞ温かく見守って頂ければと…
本当に…前のが4月とかすみません。

壱汰

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