――チリン―

 聞き覚えのある鈴の音に顔をあげると知らない顔がこちらを見ていて椿は首をかしげた。

「お前、椿だろ?」

 同じ学部の宮野とご飯を食べていて、宮野が食べ終わるのを待っていた、そんな時だった。蜂蜜色のふわふわの髪に派手なファッション。その人物が動くたびにチリンと鈴の音が響いた。

「誰?」
「へ、あ…わかんないっ」

 宮野に口パクで聞かれて首を横にふる。こんな派手な友人は今までいたことがない。けれど、自分の名前を呼んだということは、相手は自分を知っているということだ。自分が覚えていないのだろうか。そうだったら失礼だ。

「あ…の、すみません…えと…」
「今日一緒に帰ろーぜ」

 これ俺のアドレスとケー番だから登録よろしくと紙を手渡され、4時半に電話する。と、その人は人好きする笑顔を向けて去っていってしまった。何が起きたのかよくわからないまま持たされた紙を見つめる。

「強引な人だなー…電話するって…あの人知ってんの?お前の番号」
「…さあ」

 宮野が全部俺の思っていることを口に出してくれるので助かる。とりあえず律儀にも登録しようかと携帯を取り出して、いざ名前をと思ったら名前を知らないことに気がついて、早くも椿は行き詰まる。しかし、どこかで逢ったことがない…ようなあるような、さっきからそれが椿の頭をグルグルと回っている。

「どした?」
「や、ちょっと待って…えーと」

 少しだけ考えてみたは良いもののやっぱり思い出せなくて、椿は両の手のひらで顎を支えて宮野を見詰めた。

「そんな難しそうな顔したって思い出せないよ。で、ニャンゴローがなんて?さっきの話」

 宮野はカツ丼の最後のカツを口にいれてそう言った。さっきは思わぬ来訪者があって話が途中になっていたのだ。宮野には河童荘の妖怪たちの話は出来ないので、新居に猫が勝手に入り込んで炬燵に入ってくつろいでいるという話をして名前をこっそりつけているとこまで話していた。

「や、ニャンゴローって…呼んではないんだけど、ね。心の中で呼んでんの。首輪あったからきっと名前が…あると思って」

 それを言い終わるか言い終わらないかのところで宮野がぶっと笑ってとりあえずネーミングセンスねーなと言ったから、そんなことはない、と反論した。けれど無視されて、しょうがないからさっきの登録の名前の欄に『ニャンゴローさん』と打ってみた。

「まあ、……じゃあないのかもねぇ」
「へ?」

 宮野が言った言葉が聞き取れず打っていた手を止めて宮野を見ると、なんでもないよとヘラリと笑って食器を片付けにいってくれた。首をかしげつつもありがとうと宮野の後ろ姿に投げ掛けてまた椿は携帯の登録に移った。



 今日は最後のコマまで無かったので椿は宮野と別れ、外のベンチに座って携帯を眺めていた。これは自分がすべきなのだろうか、でも素性すらよく分かってないのにそれもどうかと考えたが、素性すら分かってないのに携帯にしっかり登録しているなと思って笑ってしまった。なんだかただの他人とは思えなかった。
 ボンヤリとそんなことを考えてベンチに凭れて空を見上げていたら携帯が鳴って液晶にはニャンゴローさんの文字。ドキドキしながら電話を取ろうとしたら後ろから首に何かがからめられた。アニメのように携帯を投げてしまい叫び声をあげる。どうやら人間の腕だということは分かった。

「なんだよニャンゴローさんって!」
「ひぃいっ」

 肩口に顎をのせられて後ろから伸びた腕の先にはさっき吹っ飛んだ携帯が握られていた。こっちを向いた液晶にはニャンゴローさんの文字。焦って手を伸ばしたがそれは既に遅いわけで。

「ニャンゴローって俺のこと?!」
「や、あの…話すと…長くて…ですね…あの…」
「ダッサイ名前っ……まあ、あながち間違ってないけど」
「へ?」

 とりあえず俺の名前はこれだからと言って携帯を目前に持ってこられて、目が寄る。世良恭平と登録し直されていて、せらさん?と名前を呼ぶとまたあの鈴の音がして膝の上に携帯が落ちた。そして首筋に柔らかい感触。

「にゃー」

 頬に擦り寄るのはいつも炬燵に入ってるニャンゴローだった。そして鈴の音の正体を漸く理解した。同じだ。世良が動くたびに聞こえる鈴の音とニャンゴローの首輪についた鈴の音が。 椿は何が起きたか分からなくて落ちた携帯と擦り寄ってくるニャンゴローを交互に見る。

「つーばき…家に帰ろーぜ?」
「えっ…えっ?……世良さん?」

 ニャンゴローがまた一鳴きして今しがた喋ったのは自分だと主張するものだからなんというかどうしたらいいのか分からなくなって、とにかくテンパった。それもそのはず、河童荘に越してきて外で妖怪に会うことはなかった。急いでニャンゴロー、もとい、世良を小脇にかかえて大学から出る。

「どうしたっ椿っ」
「しゃっ喋らないで下さいぃっ」

 大学は河童荘から歩いて15分のところにあるから走って10分もかからない。古びた門をくぐって東館に向かう。するとその先に見知った顔を見つけて立ち止まった。すると汗がドッと出てまたテンパった。

「なっ…なんでっ…はぁっ…なんで…宮ちゃんっ?」
「さっきぶり、椿」

 至極爽やかな笑顔を向けられてその場に崩れ落ちてしまった。脇に抱えていたはずの世良はいつの間にか人型になっていて宮野をじろじろと見ていた。

「あれ?言ってなかったっけ?今日から18号室でお世話になります!宮野剛ですよろしくっ」

 宮野は椿に手を伸ばし立たせてから世良に手を伸ばした。世良は人好きする笑顔で返し握手をして楽しくなるなと椿に抱き付きまた猫化した。

「だっ…だからっ説明をっ」
「えーここまでやってわっかんねーの椿ーここ来て2週間経っただろー?」
「世良さんは、猫又なんだよ椿」
「ご名答ー」
「さっき言ったじゃん俺。人間じゃあないのかもねって」

 チリンと首輪についた鈴を鳴らして世良は椿に擦り寄る。椿は世良を抱き上げたまま宮野に詰め寄る。

「宮ちゃんっはっ!?さっきも聞こえなかった!」
「はは、怒ってんなー。まあそれは追々ってことで部屋の引っ越し手伝ってよ二人とも」

 宮野はそう言ってパニックに陥る椿とご機嫌な猫化世良を部屋に招き入れた。


(120102)
途中っ。投げ出したっ。
わけではないんですけどね。とりあえず終わるに終われなくて。短く書こうと思って無駄に長くなってしまい分かりにくい。
世良さんは猫又さんで、挨拶しようといつも椿を待ってたんですが待ってる間にいつも炬燵で気持ちよくなっちゃって寝ちゃうんだと。気が抜けると猫化します。
鈴は堺さんがどーたらこーたらだったりします実は!また書きたいなあ←
宮野は…まあ追々また話を書きます。とりあえず妖怪?のつもりです。
とにかく中途半端でっす。趣味も趣味に入りました宮野!

壱汰
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