「え、な…え?」

 この妖怪アパート(本当は河童荘東館)に越してきて妖怪に慣れたわけじゃないけど、意外にも皆優しくて俺に良くしてくれる。見た目は人間だけど、フッとしたときに耳が出てきたり尻尾がでたり、瞳の色が変わったりと忙しない。いろいろな人(妖怪?)と出会って、最近は新しい人に会わないなと思っていて油断した。今俺の目の前にはなんていうのかな、お伽の国か何かから出てきた王子さまみたいな人が横たわってて、どうしようかと思っているところで。
 あいにくいつもなにかと気にかけてくれている15号室のザキさんは朝早くから出掛けている。さてどうしようかとアスファルトに座り込み覗き込む。肌が白くて透けてるみたいで、睫毛が凄く長い。本物の王子様みたいだ。

「ありがとう、君の名前は?」

 いきなり視界が相手の腕によって隠され耳元でそう囁かれる。首筋にヒンヤリと冷たいなにかが這ってうわずった声が漏れた。

「ははっ、君思ってることが口に出ていたよ、僕が王子様だとかなんとかって」
「っ」
「正解だよ、僕のことを皆、王子って呼ぶよ。で、君の名前は?」

 首筋に今度は息がかかって肌が際立つ。それでも答えなければならない気がして名前を伝える。

「椿大介?…そうか、君がね。どおりで美味しそうな匂いがすると思ったよバッキー」
「…へ?……あ、ちょっ?」

 バッキーってなんですかと言おうとしたらあらぬことか、首筋にキスされた。

「ひわっ…んっ」

 チクリと首筋に痛みがはしったかと思ったら後は痛みはなくて、でも身体中が熱くなってボンヤリとする。良く言って気持ちいいのかも、しれない。

「王子っ!あんた何してんスか!!」

 フワリと身体が浮いたような気がしてボンヤリとしていた思考が一気に戻ってきて、見上げた先にはザキさんの顔。少し怒っているのか眉間に皺が寄っていて、興奮した時に現れる犬の耳が出ていた。きっと尻尾も出ているんだろうなと思ったら面白くて少しだけ笑ってしまった。

「なっ…に、笑ってんだ、馬鹿!」
「ひっ…すみませんっ」
「つーか!王子っ…あんたが迎えにこいって言うから空港まで迎えにいったんじゃねーッスか!空港行ったらいねーしっ、コイツにちょっかいだしてるし」

 ザキさんは俺を降ろして(降ろされて漸く横抱きされていたことに気が付いた)王子と呼ばれる人のところに進んでいった。そういえば、俺はあの人に首筋を…。

「あ」

 そこでピンときた。首筋を擦っても血は付かない。でも気だるさは残る。言ってしまえば貧血のようだ。ということは、あの人は。

「吸血鬼っ…」

 言い合いをしていた二人の視線が此方に向いて少したじろぐ。

「やめてよ、バッキー…そんな下品な言い方。そうだねぇ、ヴァンパイアとでも言ってくれない?ねぇザッキー?」
「どっちでも一緒ッスよ。もードラキュラでもなんでもいーっスから、今度から変なことで呼ばないでくださいね」
「だから下品な言い方やめてよね。いやぁ僕自分の車あるの忘れててね、あはは」

 笑い事じゃねーんだよとザキさんは尻尾を逆立てていたけどすぐに耳も尻尾も消えた。

「さあ、バッキーご馳走してもらったからね、僕の部屋にでもおいでよ。いいカップも手に入ったしね、ザッキーも来てもいいよ」
「椿だけ行かせられるわけねーッスよ」

 なにそれバッキーはザッキーのものなの?と言う王子の言葉をザキさんは無視してスタスタと王子の部屋であろう10号室へと歩いていってしまった。

「あのザッキーに気に入られるなんて同類なんじゃないのバッキー」

 少しだけ獣臭くもあるものね君。でも魅力的な匂いもするよ。そう言って王子は額にキスを落としてきて、目が点になる。

「王子っ!椿っお前も抵抗しろって!」
「ふわっ…すっすみませんっ」
「ははっ…君たち犬みたいだねなんか」

 約一名は犬だけどねと王子の笑い声が響いた。




(111031)
ヴァンパイアかインキュバスと迷いましたがヴァンパイアが主でインキュバスの血も混ざってるとかなんとかって話で。それはまた別の話ですが(・∀・)ほら王子はハーフだしっていう…

0109変更


壱汰

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