※21巻ネタバレ?



 何でもない喧嘩をした。何が原因だったのか、それすらも思い出せないくらいくだらない理由で喧嘩した。怒らせてしまった。悲しい顔をさせてしまった。謝りたいけど、いらないプライドが邪魔をしてごめんの一言が喉に張り付いて出てこない。

「…つばき」
「…部屋……入っていい?」

 俯いたまま、宮野の部屋のドアをノックするとすぐに宮野がドアを開けてくれた。ノックするドアがいつもより厚く見えて、開けてもらえないかと思っていたから少し意外だった。宮野はなにも言わずに部屋への道を空けてくれた。暫く足に重りがついているように重くて前に進めなかった。

「ん、」

 スッと、俯いた視線の先に手を出された。その手に吸い寄せられるように自分の手を絡める。きゅうっ、と一度だけ握られてそのまま引っ張られて宮野の部屋へ引き込まれた。

「宮野…」
「…」

 慣れ親しんだ呼び名が少しだけ気恥ずかしかったから名字を呼ぶ。繋いだ手はそのままで、でも宮野は此方を向いてはくれない。宮野の背中に額を付けてもう一度宮野を呼ぶ。

「…みやちゃん」
「…なに」

 今度は返事が返ってきて笑ってしまう。随分前に呼び始めて、最初は嫌だとか恥ずかしいとか言ってた癖に。

「…なに笑ってんの」
「だって…みやちゃん」

 笑うなよなと宮野が此方を向いてきて、困ったような、笑いを含んだようなそんな微妙な顔をしていて、ぶっとふきだしてしまう。けらけらと笑うと宮野の親指の腹と人差し指の腹が頬を挟む。

「あにすんのお…」

 唇が所謂タコチュー口になっていて上手く言葉にならない。それを楽しむように宮野が笑っていてホッとする。久しぶりに笑顔をみた気がする。喧嘩はほんの数日前の話なのに。

「つばき、ごめんな」

 いきなりそんなこと言うなんて、宮野は狡い。宮野の手を退けてジッと宮野を見つめる。

「みやちゃん…狡い」
「なんで、」

 未だに繋がれたままの手が汗ばんでいる。それでも離れない離さない。

「俺が先に謝りたかったのに」
「んー……椿は俺の部屋に来てくれたじゃん」

 宮野はニッコリと子どもっぽく笑った。来てもなにもできなかった俺に最初に折れてくれたのは宮野だ。繋いだ手を握って宮野に抱き付く。

「ちょ、手が折れるって」
「みやちゃんごめん……すき…だよ…うん…」
「なんだよそれ…色気ないなあ」

 色気なんてあってたまるかとギリギリと繋いだ手を変な方に曲げる。痛いと連呼する宮野の肩口に顔を埋めて、恥ずかしい二文字を口にした。

「うん、知ってる」

 耳元で宮野から二文字を囁かれて恥ずかしさを誤魔化すために繋いだ手をまた変な方に曲げてやった。



て、繋ご



(111024)
久しぶりにミヤバキです\(^^)/例の公式新刊ネタです。まだ読んでおられない方はすみません(´・ω・`)
椿に甘い宮野が好きです。宮野には気が強い椿が好きです(・∀・)

壱汰

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