「いい加減に帰ったらどうですか?」

 あんたらの痴話喧嘩なんかに構ってられないんですよこっちは。
 ザキさんが俺の前に立ちはだかり声を大にして言う。正しく言えば、俺に抱きついたままの世良さんに向かってではあるのだけれど。

「うるせー椿がお前に不満持ってないとでも思ってんじゃねーぞ馬鹿崎ぃ」

 いきなり矛先が俺に向けられて無駄に焦ってしまう。ソファーに座った俺に跨がって首を絞めるがごとく抱き付いて、所謂抱っこの形で収まっている世良さんの後頭部を睨んでいたザキさんの瞳がジロリとこちらに向いた。それにブンブンと手と首を振りそんなことありませんよとアピールする。

「つか、俺らに八つ当たりっつーか、本当に巻き込むのやめてください」

 ザキさんの瞳は俺から自分の携帯に移りホッと息をつく。
 なんでいまこんな状況かと言うと、明日はオフで練習が終わって、約束していたザキさんの家へザキさんの車で行き、部屋に行っとけと鍵を手渡され部屋に入ったまではよかった。手を洗ってさあソファーに座ってテレビをとリモコンをテレビに向けた途端、玄関で怒鳴り声の様なものが聞こえ、次いでドタドタとリビングまでの廊下を走る音。バァンと開いたリビングのドアから現れたのは練習後のロッカールームで、今日は堺さんとデートなんだぜーと嬉しそうに話していた世良さんそのもので。気が付いたときにはこの体勢になっていた。
 世良さんに少しだけ遅れて息を切らせているのはザキさんでもうなにがなんだか分からなくて、抱きついたままの世良さんの髪とザキさんの顔を交互に見る。聞けばエレベーターに乗る世良さんが見えて悪い予感がして階段をかけ上がってきたらしい。因みにここは15階だったりする。いくら現役のスポーツ選手でも息は上がる。それからはザキさんと世良さんの攻防戦で、俺は本当にどうしたらいいのか分からない。

「あ…の…世良さん…今日は堺さんは?」
「知らねー!堺さんなんて知らねーっ」

 耳元でそう叫ばれたものだから暫く耳がキンキンしてなにも声をかけられなかった。それもなくなって世良さんが俺の肩に顔を埋めてウンウン唸ってたから、喧嘩したんですか。と聞くとぎゅうぎゅう抱き締められてコクンと首を振った。
 あんなに楽しそうにしていたのに可哀想だなと無意識に手が世良さんのワックスで固めた髪を撫でていた。

「…椿」
「へ?」

 撫でていた方の手はいつの間にか宙に浮かんでいて、その手は掴まれているようで先を辿ると眉をつり上げたザキさんがいた。

「世良さん退けって言ってんでしょっ」
「嫉妬とは見苦しいぞ赤崎ぃいっ」

 もう片方の手で世良さんの襟首を掴んで引っ張っていて俺は世良さんがぎゅうぎゅうしがみついてくるからソファーから浮いたり座ったりを繰り返していた。とりあえずやめてください二人共と叫ぼうと思ったら別の声に消されてしまった。

「世良っ」

 リビングのドアの前には息を切らせた堺さんがいて、一瞬にしてその場が静まり返った。俺の手と世良さんを掴んでいたザキさんの手が離れて、ザキさんは盛大に溜め息を吐いた。

「堺さん、遅いっスよ」
「悪かったな、赤崎に椿」
「本当ッス…早くどーにかしてください」

 分かってるよと堺さんが眉をひそめて困ったように笑ったのが見えた。いつもの恐い顔じゃなくてとても優しい顔だと思って少し赤くなってしまった。

「世良」
「嫌ッス…俺別れないッス」
「…」
「堺さんが奥さんと寄り戻したいって思ってても俺は堺さんから離れないッス…我が儘だって分かってる…けど……っ!!いっ痛っ!!?」

 ゴチリという音が響いて俺に乗っていた世良さんが床に滑り落ちた。俺は頭を押さえて踞る世良さんに手を伸ばそうとしたけど堺さんにヤンワリと止められて、その手はザキさんにとられてソファーから引っ張り起こされた。ザキさんに腰を引き寄せられて物凄く近くでザキさんを感じて堺さんと世良さんを見ていられなくて俯く。顔が熱い。

「お前はそんなに俺と別れてーのか、元嫁と寄り戻されてーのか」

 ドキドキし過ぎて忘れていたけれど堺さんの声に背筋がピンと伸びた。それが伝わったのかザキさんが少し笑ったのが分かった。堺さんはソファーにドッカリと座り、床には正座した世良さんがいてなんだか母親に怒られている子どもみたいだなとか思ってしまった。

「いっ…嫌ッス…」
「…そもそもお前は…勘違いしてる………帰るぞ」

 世良さんがコクりと頷いたので喧嘩はおさまったらしい。よかったとホッと息を吐いた。堺さんはソファーから起きてザキさんと俺の横を通りすぎようとして声をザキさんにかけた。

「赤崎そのニヤニヤした顔今すぐ引っ込めろ」
「ちょっと、俺に当たらないでくださいよ、つーか今度なんかお礼待ってますんで」
「本当可愛くねえなお前……椿…迷惑かけたな」

 いきなり声をかけられて首を横に振ることしかできなかった。世良さんはごめんなと呟いて堺さんの服の裾を掴んで、二人は帰ってしまった。とにかく仲直りできたみたいでよかった。いつの間にかザキさんは俺から離れて玄関を閉めにいった。

「俺…堺さんのあんな顔始めてみました…世良さんのこと大好きって顔してて、俺ドキッとしちゃいました」

 俺のそんな言葉を聞いてか聞かずか、ザキさんは黙ってソファーに座り込むとこちらに向かって両腕を広げてきた。

「ザキさん…?」
「俺は自慢じゃないが、嫉妬深いって言っただろ」

 ザキさんの頬が赤く染まっていて笑ってしまった。ザキさんの足を跨いで膝に座り込んでさっきの世良さんみたいに首に抱き付く。ザキさんの手が背中に回ってぎゅうぎゅうと抱き締められる。なんだか恥ずかしくて、くすぐったくて、愛しくて、耳元で大好きですと告げてみた。


他所の恋愛<自分の恋愛

(111123)
サクセラサクに振り回されるザキバキをかきたかったんですけども。
なんだかゴチャーと終わってしまいました\(^^)/もっと書きたいことあったのに時間が経ってたので忘れててしまいました。
とりあえず堺さんは奥さんと別れてる設定で…すみませんっ!
壱汰


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