そういえば、付き合っているんだ。少し前を歩く赤茶の髪の毛を見つめながら、ふと、そんなことを思った。付き合っているという言葉にどこか自分の中でシックリとこないものがある。しかしその理由が分からず小室は小さく首を傾げる。
 数週間前に寺内から付き合うかと問われて、咄嗟に首を縦に振った。そのあとは気付いたら寺内の腕の中に収まっていた。身体が熱を持ったように熱くて、でも、ああこれが好きってことなんだと思った。だが今はどうなのだろう。しいていえばよく分からないのだ。寺内が。だ。いや、自分の気持ちが分からなくなったのかもしれない。付き合って何がどう変わった訳ではないしむしろ、前よりも何かが足りない気がする。付き合うと宣言した数日後にはもうこんな感じだった。ずっと、何かが胸につっかえている。

「テラさん、」

 何を思ったのか口が勝手に名前を呼んだ。自分でも驚いて咄嗟に口元を覆う。前を歩いていた寺内は肩を少しだけ揺らしてから、ゆっくりと振り向いた。眉間に皺がよっている。小室は胸にチクリと何かが突き刺さった様に思えて、口元から胸に手を移動させた。

「…なんだよ…コム」
「や、あの…今日…」

 テラさん家に行っても良いですか。という言葉は飲み込んだ。そしたら次の言葉が喉の奥に貼りついたみたいにつっかえて、寺内を見つめたまま固まる。手が些か震えて、それを隠すために胸元のシャツを握りしめる。そんな小室に寺内は頭をかいてから、持っていたスクイズボトルを投げて寄越す。よくわからずも飛んできたそれを小室はキャッチした。スクイズボトルはまだ中身が残っていて、ズシリと重く感じた。取れたことにホッとしていた向こう側で寺内がフッと笑った気がして小室は急いでボトルから寺内に視線を移した。目があった途端にばつが悪そうに顔をしかめて頭をかく。そうだ、最近は寺内の笑った顔も見ていない。それがきっと、多分とても寂しいという気持ちに似ていて小室は混乱する。寺内のことばかり考えている。ずっと、だ。好きだと言われて自分が寺内を好きだと気付いた。きっと、前よりも彼のことを知れて彼と一緒にいれて、彼も自分を好きになってくれたと思った。同じ気持ちが続くと思ってた。でもきっと違ったんだ。彼は俺なんか好きじゃない。それでも自分は彼が、好きらしい。きっとそれが彼にはバレていたのかもしれない。だから、好きだなんて言ってくれた。

「なに、いーたいことあるんだろ」

 ああ、溢れてしまう。なんて他人事にも、思った。

「テラさんが、俺にっ触ってくれないからっ…」

 涙と一緒に出た言葉に驚いてスクイズボトルを胸に抱いたまま口元を両手で塞いだ。もう、何もかも遅かったけれど。

「…コム?」
「や、ちがくてっ、あのゴミが…目に、洗ってきます…」

 スクイズボトルを強引に押し付けて走り去ろうとしたのに、ボトルは受け取られることなくアスファルトに落ちて鈍い音を響かせて転がっていった。まただ。また、この温かさに包まれる。早く離れなきゃ、また勘違いしてしまう。

「やっ、離してくださいっ…おれ、諦めますからっテラさんのことっ、テラさん俺がテラさん好きなのを知って告白してくれたんでしょ、俺大丈夫ですからっ」
「コム落ち着けって」

 離れようとしてもグッと力を込められていて彼の腕から逃れられない。いや、自分の身体がそれを許さないのかもしれない。こんなにも寺内のことが好きだったんだと涙がどうしても止まらなかった。

「コム」

 耳元で囁かれて耳に唇が触れる。胸がきゅっとなって苦しくなる。触れられて嬉しい気持ちと後戻りできなくなる自分がいてもうどうしていいのか分からない。

「テラさん…テラさん…」

 名前を紡ぐのも愛しくて苦しい。

「コム…好きだよ」

 涙でボヤけた視界を寺内に向けると驚くくらい近くに寺内がいて、唇を塞がれる。何度も優しく口付けられて身体中が熱くなる。もう後戻りなんて不可能だとそう思った。

「俺がお前に告白したんだよ。なんで自信なくすかな。俺の我慢も、逆効果だったし」
「え?」
「いや、とにかくお前覚悟しろよってこと」

 もう一度寺内は小室の唇に唇を押し当てて、もう後戻りしたいだなんて赦さないと、小室の目尻に溜まる涙に舌を這わして小室を解放する。そして小室が落としたスクイズボトルを拾う。その行程を小室はぼんやりと見つめていた。が、眉間に押し当てられた物に驚いて奇声を発した。

「うひゃっ、」
「くっ…おっまえ、」

 スクイズボトルを押し付けられて咄嗟にそれを掴む。ボトル越しに見た寺内は肩を揺らして笑っていた。

「で、今日どーしたいの」
「え、あ…テラさん家に…」

 それを聞いた寺内は照れたように笑みをこぼして、俺結構愛されてんだな、なんて呟くものだから小室はどうしたものかとボトルを手元で弄ぶ。顔もきっと耳まで真っ赤なんだろうかと顔を俯ける。

「コム、それ、」

 持ってこいよな。そしたら、いーよ。と言ってから寺内はクラブハウスに向かってゆったりと歩き始める。それを後ろから見ていた小室はスクイズボトルを大事そうに抱えて、唇を指先でなぞってからふにゃりと笑い寺内の真横に駆け寄った。


スクイズボトルに、
くちづけを




>>6月8日はテラコムday!『6と8の間、』素敵な企画への参加とても嬉しいです!テラコム初書きな私ですが、テラコム大好きですっ。大阪で一番好きなカップリングです(^^)しかし初書きで参加すみません。
今回は、寺内→小室と見せかけ寺内←小室と見せかけ、なんだよ寺内→←小室じゃんみたいな…分かりにくい話ですみませんでした。あまりにも素敵なお題を頂いたので如何にテラコムろうかと考えて考えて、あんなことに。とにかくスクイズボトルが出張りに出張りましたね。もういっそ、寺内のスクイズボトル×小室な感じもしますが、テラコムですっ(必死)
紳士と見せかけた獣な寺内と可愛くカッコいい小室が大好きですっ。今回は全く掠りもしてないですが…。
このような素敵な企画を主催して頂いた、主催者あきさんありがとうございました(^ω^)皆さんのテラコム見てテラコムな日々を迎えることが出来るのが幸せですっ。テラコムふおーえばー(^ω^)

窒息少年:壱汰

Thanks:六仮


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