いつもなら、頭を冷やすように、どちらかがすぐにベッドから降りて風呂場に行くはずなのに、今日はそんな感じではなくて、喧嘩をしたのに離れられない子どもの様に二人して隣り合って座っている。触れるか触れないかの距離が物悲しい。さっきまであんなに触れ合っていたのが嘘みたいだと、首を鳴らして小さく息を吐いた。
 本当は、逃げ出したい。嫌な予感がする。それでも逃げないのは、心の奥底で終止符を打たなければならないと思っているのだろう。皮肉なものだと、もう一度息を吐き出そうとしたのは椿の言葉に飲み込まれた。

「みや…やめよう…もう」

 嗚呼、終わってしまうと、身体が震えた。さっきまで嫌だったこの距離が今は有り難かった。声が震えていなかっただろうか、手は震えていなかっただろうか。俺は椿を安心させるような言葉を紡げただろうか。
 椿の頭を撫でたところで漸く頭が冴えてきた。謝罪を述べる椿に少しだけ意地悪をする。

「俺も、椿を利用させてもらったんだから」

 利用なんて、俺が全て仕掛けたことじゃないか。酒を飲んで弱った椿につけこんだのは自分で、セックスで椿を繋ぎ止めようとしたのも自分だ。後戻り出来ないように、身体に覚え込ませようとしたのも、全部が全部、エゴで、椿は被害者だ。椿が顔を俯けて、きっとあの大きな瞳には涙が溢れているんだろうと、優しく頭を撫でてキスでもしたら椿は吃驚して一瞬で泣き止むんだろうなと有り得ない事を考えて少しだけ笑ってしまった。
 椿をベッドに残したままベッドに無造作に脱ぎ捨てた服をひっ掴み袖を通す。

「みや…彼女とは?」

 椿の言葉にズボンを掴んだ手をピタリと止めた。言わないつもりだった。でもスルリとでた言葉に自分でも驚いた。嘘だと伝えたら椿は驚いたのか顔をあげた。その瞳にはやっぱり涙が溜まっていて、頬を伝ったのに焦って拭う椿に笑ってしまった。

「みや…」
「俺ね…」

 ベッドに上がり椿の頬に手を添える。不思議そうに此方を見る椿の唇の端にキスをする。唇に一番近いところに始めて触れた気がして無性に泣きたくなった。

「椿の事が好きだったよ、」

 溢れた言葉に涙が混み上がる。本当は好きだと伝えたかった。でもそれは許されないと思った。最後だからと椿を掻き抱いて、椿の温もりに涙がついには流れた。冗談だと伝えて更にきつく椿を抱き締める。

「…明日からは、チームメイトで、友達に戻るから…今だけは」

 今だけは椿の一番近い人間でいさせてと願いながらもう一度好きだったよと呟いた。



少しの間だけその瞳に僕を映してください



(110413)
大変救われない宮野くんです。二話の宮野心情でした。
次からは赤崎が登場します。
基本的甘くない連載で申し訳ないです(´・ω・`)
甘い話が書きたいです←
こんな連載ですがお付き合い下さればと思います。

壱汰

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