買って貰ったばかりのホットミルクティーを手の中でゆるゆると弄びながら小さく溜め息をつく。それを聞かれていたのかザキさんはハンドルを切りながら声をかけてきた。
「帰るんだろ、」
「う、え、…え?」
「実家」
そう言ったザキさんに小さくハイとだけ呟いた。
「ならなんでそんな顔してんの、乗り心地でもわりいの?」
お前結構いつも楽しそうに乗ってんじゃんと少し笑いを含んだザキさんの声に首を振って、乗り心地はとてもいいですと窓の外を見てから言った。
自分はザキさんの車に乗るのが好きらしい。乗り心地も匂いまでも安心する。よく乗っていたら寝てしまってザキさんに笑われることもしばしばで。でも今日はそんな余裕がない。また沈黙が続く。そうこうしていたらスルリと手の甲を撫でられた。
「ほら、ついたぞ」
バッと顔を上げるといつの間にか駅の駐車場に着いていた。ありがとうございますと言ってからザキさんを見るといきなり顎を掬われて唇を塞がれた。一瞬の事で唇が離れた後もザキさんをポケッと見詰めていた。
「電話…するから出ろよ」
「へ…え?あ…う…はい」
そんな返答にザキさんは本当に分かってんのかよと笑って俺のカバンを掴んでからドアを開け車を降りた。その行動を見てたら早く降りろと言われ慌ててミルクティーを持ち直してから車を降りた。
「ざ…きさん」
「改札までな…」
そう言ったザキさんにカバンを任せたまま着いていくと、お前のとこ電話通じるっけと言われて、二個は立ちますとだけ言うとまた笑われた。だから三個立つ所もちゃんと探せばありますと言うと、一人のとこで電話とれよとニヤリと意地悪くザキさんが笑った。
「そんなの…分かんないですよ」
「まー、恥かくのはお前だからいいけど」
「なっ、何するんです、か?」
ザキさんは笑ってからするって何だよお前ヤらしいな。なんて言ってきて何がなんだか分からなかったけどヤらしいななんて言われて顔に熱が篭った。
「なっ…え?」
「ほら、カバン…切符は」
ザキさんにカバンを渡されて急いで切符を買いに走る。まだ早朝だから人は少ない。販売機で切符を買ってザキさんの所まで走る。
ザキさんはなんで走ってンのと笑った。今日はザキさんの笑った顔が一杯見られる気がする。
「つか、あー、3日には帰ってくんだろ…迎えに来るから…そのまま行くぞ初詣」
「…はい」
「ほら、怒ってんなよ、」
「怒ってなんか…」
ザキさんが口を歪めてそんなことを言う。そういわれて自分は怒っていたんだなと改めて実感した。
実家に帰らないで寮にいるといったザキさん。自分も正月に帰らなければいけないというわけではなかったから、少しだけ帰るのをずらそうかなとザキさんに相談したら、お前は帰れと言われた。多分その時は、はい、じゃあ帰ります。なんて言ったんだとは思うけど後になってモヤモヤし出した。
「俺は…寂しいです」
こんなにも自分は女々しかっただろうか。ザキさんと付き合い始めてから自分の嫌な部分ばかりが見えて本当に嫌になる。でも、きっと口に出した言葉そのままに、寂しいんだと思う。
毎日練習があって、寮でも一緒。一目も合わないなんてそうそう無い。それなのにザキさんは帰れって。今年は寮に残ってる人達と年越しするって。なんだか自分だけが寂しいような気がして悔しかった。
「俺も寂しいよ」
そう言ったザキさんを見ると顔を真っ赤にして口元を押さえていた。お前がそんなこと言うの珍しいから驚いたと言ってから頬を引っ張られた。
「正月くらい実家には帰ってやれよ。俺は正月終わってから構ってもらうのでいいから」
「な…んれすか…それ」
「そのまんま、独り占めはやめようってな、ほら、行ってこいよ」
ザキさんはまた笑ってから頬を離してくれた。
「いっ…行ってきます」
「おー、行ってこい」
改札を通って振り向くともうザキさんの後ろ姿。駅を出ようとしていた。
「むっ迎えに…来てください…よ、ザキさん」
改札を通った先で後ろ姿にそう叫ぶと振り向きもせずに後ろ手にひらひらと手をふって見えなくなってしまった。丁度着いた電車に乗って席につく。電車の中はガランとしていた。
冷えてしまったミルクティーを窓際に置いてから苦手なメールにチャレンジしようかと携帯を取り出す。するとバイブが鳴って携帯を取り落としそうになる。
そこで、自分だけしか乗り手がいなかった駅を電車が発車する。携帯を開くと今まさにメールをしようとしていた人からのメールで、読んでから笑ってしまった。
「もう、しょうがない人だなぁ」
そんなこと分かってますと送ると物凄い早さで電話がかかってきてまた笑ってしまった。
メールも電話も
優先すること
(110102)
年越し文にしようと思いましたが。拍手にしました。
なんていうか、ザキ←バキかと見せて結構ザキ→→→←バキな関係が大好きです。凄く失敗な感じに終わりました(__)無念
今年もよろしくお願いいたします!また年明け文は別に書きますたぶん(^^)
壱汰