君が女の子ならよかったのかもね。僕もこんなこと考えるなんて楽じゃないや。王子の言葉はいつも何かの魔法みたいに自分の脳へ、科学的には証明出来やしない心にまで簡単に浸透していく。自分はさながら安っぽいスポンジで、一瞬に王子の言葉を吸い込んで、直ぐに使い物にならなくなる。容量が少ないのだきっと。何の気なしに彼はその言葉を放ったのだろうけれど、自分のスポンジは既にぼろぼろになってしまったらしい。

「…ちょっとバッキー、何泣いてるの」
「泣いて、ません」

 容量を越えると直ぐに涙としてしか発散されない自分に本当に嫌気が差す。それでも涙は止まらなくて暫く黙っていた王子からはぁ。と、大きなため息が聞こえた。それに肩が馬鹿みたいに震えた。俺は次の王子の言葉に身構えることしか、今すべきことが見当たらなかった。それも、王子の言葉には意味の無いものでしかなかった。

 めんどくさいね。王子の言葉は強烈だった。涙が一瞬引っ込んで、ヒュッと息を吸い込んだ。その息を肺に送り込んだことをどこか他人事のように感じながら、一呼吸おく。

「だったら…も……っ…」

 絞り出した言葉は詰まり、息をするのが苦しくなった。気付いた時には息をするのが苦しいんじゃなくて、上手く酸素を肺に送れていないのだと悟った。胸の辺りがぎゅうぎゅう圧迫されているようで、涙腺が壊れた見たいに溢れだす。立っていられなくて異変に気付いた王子が伸ばした腕に倒れ込んだ。床に雪崩れ込んで王子に泣きながらしがみつく。
 王子の細くて大きな手がゆっくりと背をさするけれど、肺に酸素を送ろうと口を開閉させるものの上手くいかない。

「バッキー落ち着いて、只の過呼吸だよ、ゆっくり息整えて」

 今までそんな状況になったことがないので、パニックになってしまった。王子の言葉も今はろくに耳に入ってこない。

「おうじ…っ…ひっ…はっ、ぅ…おう…じっおうじっ…」
「…しょうがないねぇ、バッキー…」

 グッと顎を掬われて唇を合わせられる。鼻を押さえられ二酸化炭素が送り込まれてる。それを何度か繰り返されて、気付いたら息が上手く吸える様になっていた。王子の片方だけ崩した腿の上に後頭部を預けているようで、見上げた先には眉をしかめた王子がいた。

「何をそんなに興奮してるのさ。」

 過呼吸まで起こすなんて。王子の言葉が上から降り注ぐ。嫌われた上に呆れられてしまったなんて。後から後から涙が溢れる。王子の表情が涙で全く見えなくなった。今となっては好都合で、王子の言葉が耳に届くまで幼い子どもの様に泣いていた。

「バッキー…好きだよ」
「っふ…っ…え?……うそ」

 つかないで下さいと続けると王子は小さく笑みをつくってもう一度囁いた。好きだよ、愛してる。そんな恥ずかしい言葉をゆるゆると頭を撫で、前髪を透きながら言う。俺はそれに首を振り続ける。

「…ね、どんなに僕が君を好きだと言葉にしても信じないでしょ、だから、女の子ならいいねってね」
「な、んで?」
「バッキーはこの僕にそんな下品なことを言えって言うの?」

 訳がわからず真上にいる王子を下からジッと見る。王子は信じられないよバッキー。と額を押さえ、苦笑した。

「君は僕の子どもがいたら、些細な証でもあれば、安心しそうじゃない。」
「へ」
「でもね、僕は例え君が女の子だとしても、そんなモノは一生作らないよ」

 僕は嫉妬深いんだ。そう言った王子の唇が拗ねた様に尖った。

「俺は…てっきり俺が男なのが、嫌なのかと」
「何を今さら。」

 そんな事実は恋をしたら全く気にならない事なんだよ、バッキー。王子の魔法の言葉がゆっくりと浸透していく。

「僕の選んだ言葉が悪かったよ、ごめんねバッキー、めんどくさいって言ったのは、どう伝えたらいいか見つからなくてさ」

 王子の言葉のシャワーに俺の安っぽいスポンジは決壊寸前で、また馬鹿みたいに涙が目に溜まる。どうしたのバッキー。と、優しく涙を掬う王子の手が気持ちいい。

「俺、スポンジなんです」
「なんだいそのスポンジって」

 ゆるゆると頬を撫でる王子に擦り寄るとなにが可笑しいのか王子が笑いだした。

「無機物にたとえるなんて、本当にバッキーは飽きないねぇ。人間とスポンジか、傑作だよ」

 俺の言葉の意味を考えていたのだろう。伝わったかどうかは分からないけれど、やっと王子の笑った顔に満たされる。

「まあ、こんなに馴染む、吸収性のいいおバカなスポンジは僕以外使えないだろうね」

 王子の魔法でどんなモノでもキラキラと輝く気がした。


魔法使い無機物



(110309)
サブタイは世界に浸ってるジーノと女々しいバッキー(´・ω・`)
王子の言葉一つでぐちゃぐちゃになって過呼吸になっちゃう椿を書きたくてだな。なんとも女々しいメンタル弱い子になってしまった、いや、精神的にきたら過呼吸なるよね。あれは辛い。
王子は世界浸ってるしw
椿は王子に好かれていることにまだ実感が持てなくて、というか一生そんな感じだと。王子だし。
ジーノは椿好きなんだけどどこかやっぱり対等になれてない気がして、男女なら既成事実して子どもでもできれば椿は安心出来るんじゃないかとか、無意味な考えを巡らせているとか、
とりあえずジノバキはそんな、恋人なのに好きなんだけど。な、絡まった関係(´・ω・`)ならいーな。地味にどこかシリアスがいいな。基本的に幸せなんだけどね。根本がそういう。

ジノバキはジノ←バキっぽいけどジノ→バキも強いと思うんだ。
とりあえず、初めてのジノバキ。壱汰はタツジノタツ派ですが、書くのはやっぱり椿受けでした。
後書きナガッ

いろいろくれた相方するこにあげようと書いたのだが、彼女はバキジノ派wもう一個ザキバキ書きます(*´д`*)
するこのみお持ち帰りどうぞ。

壱汰


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