(ザキバキ+コタ)


「ねぇ、椿さー」
「う…うん?」

 サインを書いたノートを返しながら名前を呼ばれ視線を合わせるようにしゃがみこむ。こういうことをするとこの子(たしか幸太君って言ってた)は、餓鬼扱いするなよなと怒るのだけど今日は機嫌がいいのか怒られなかった。自分には弟や妹がいないので、こういう幼い子と喋るのが新鮮で楽しい。

「椿さぁ、コイビトっていんの」
「ん…ええ?なっなに?」

 暫くなにを言われたか分からず首をかしげていると、ジャージの裾を引っ張られて更にしゃがまされた。幸太君の顔に耳を近付けると恋人と大きな声で言われた。

「っわ…耳っ…へっ…こい…びと?」

 耳を押さえて今聞いた言葉を反復してから漸く理解する。しかし、どう反応したらいいのか分からず、小学生には早いだとか怒るのがいいのだろうか(まあ無理だと思うが)それともここは、真面目に答えるべきなのかとか無駄に考えていたら、またジャージの裾を引っ張られた。

「どうなの?」
「えーっと…」

 恋人という言葉に浮かんだ人物に条件反射というのか赤くなってしまった。顔を見られないように顔をそらそうとしたけどいきなり視界が閉ざされた。

「椿、汗冷えるだろ戻るぞ」

 今まさに考えていた人物と耳に届いた声が一致していてタオルの中で赤くなる。タオルを手で掴んでから後ろを振り向くとザキさんが仁王立ちしていた。

「すっすみません…」
「あ。なんだ赤崎か」
「赤崎さんと呼べっていってんだろ…餓鬼、」

 ザキさんはまたお前餓鬼のくせして恋人がどーとか聞いてんだろと幸太君に言ってから髪をぐしゃりと撫でていた。幸太君は触るな赤崎格好付けが移るだろとかなんとか言ってザキさんの手から逃げていた。


「赤崎は格好付けだから恋人いねーだろー」
「はっ、どうだかな。…なぁ椿?」

 暫くじゃれていたと思ったらいきなり話を振られてしかも話題が話題で自分はニヤニヤと笑うザキさんを真っ赤になりながら見つめることしか出来なかった。そんな俺の顔にまたタオルを押し付けてきて、よし帰るぞと言って背中を押された。

「逃げるのかよ赤崎っ、てか椿置いてけようっ」
「はいはい、早く帰れ」

 ザキさんにクラブハウスまでグイグイと押されるままに、その場を去った。後ろ手に幸太君の叫ぶ声が聞こえたけど振り向くことすら出来なかった。


「あの、ザキさ…わぷっ」

 入口に入ってすぐ持っていたタオルを再び顔に押し付けられて一瞬息が出来なくなる。暫く顔を拭われる様にされてからクラクラしながら見たザキさんは楽しくないといった顔をしていた。

「なーに餓鬼になめられてんの、つかなに口説かれてんの」
「は、えっ」

 口説くってなんですかと言うとそのまんまだよと言われて、あいつすげー本気って顔してたぜ。と、とんでもないことを言うザキさんに開いた口が塞がらなかった。すると、分かってねーな、最近の餓鬼事情、と凄く馬鹿にされた気がした。

「ザキさんが考えすぎなんス、よ」
「言っとけ、もう助けてやらねーからな」
「なっ、なに…」

 あれは果たして助けであったのだろうかと考えつつも、スタスタとクラブハウスの廊下を歩くザキさんについていく。

「俺は、浮気は許さねーからな、」
「は、」

 いきなり後ろを振り向いてそんなことを言われて目の前でロッカールームのドアをバタリと閉められた。

「へ…え?」

 暫く目の前のドアをじっと見詰めてさっきの言葉の意味を理解して、ソッとドアを開けた。ロッカールームにはザキさんだけで、そのザキさんはベンチに座ってタオルで顔を覆っていた。少しだけ見える耳が真っ赤でもう笑ってしまった。

「ザキさん…子どもみたい」
「…うるせーな」

 顔を近づけてザキさんの髪の毛に触れ、そのまま頭を撫でる。すると頭を逆に押し付けられて仕舞いにはお腹に抱き付かれた。

「ザキさん子ども好きなんスね」
「は、嫌いだよ」
「めちゃくちゃ扱い慣れてましたよ、」
「…知らね、それよりもっと」

 更にぎゅっと抱き締められて胸の辺りがほっこりと温まってきて、何て言うのだろうか、これはザキさんは甘えているのだろうかなんて考えて、なんか可愛いななんて思ってしまって顔が綻んだ。




少年Aと青年T





(110106)
書いていてなんか間違ったなと思いつつも書いてたら方向がてんで分からなくなりました。
本当は意外にも子ども好きな赤崎の話を書きたかったんですがアレアレ。子どもに嫉妬する赤崎がいました。
むしろもっとザキバキ←コタにしようと思いつつも+コータに。
失敗失敗。リベンジするぞ(・ω・´)←


壱汰

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