朝起きたら隣にあるはずだった温もりがないとこんなにもテンションが下がるのだと知って、相当依存してるななんて自分に少し嫌気がさした。そうさせたモヤモヤの原因というか人物を、自分の部屋を見渡し探した。思いの外すぐに見つかった人物は寮の簡易な窓ガラスにペタリと手を押し当てて外を覗いていた。

「つばき、」

 起きたばかりで些か掠れた声が喉から出た。椿はスポーツマンにしては華奢な肩を異常なまでにびくつかせて此方を見た。俺を視界に映してからは緊張が解けたようにふにゃりと笑ってベッドまで走り寄ってきた。現金な自分はそれだけで、さっきのモヤモヤは消え去って逆に気分が上向きはじめた。
 おはようございますザキさん。と言った椿の頭を撫でてからなにしてたんだと笑うと、椿は思い出したかのように表情を更に明るくして俺の手を掴んだ。

「ザキさんっ、雪です!雪っ」
「あ…?」

 椿が良いから来てくださいと引っ張るので、俺今全裸なんだけど。と、ニヤリと笑うとビクリと肩を震わせて椿は大人しくなり、手を放した。いつのまにやら着替えていた椿だが、自分は着替えていない。椿は黙って顔を赤くしながら、俺の衣服を拾ってきて俺に渡してきた。まさしく犬だなと言おうとしたが、渡す手が恥ずかしさからか些か震えているのをみて笑いそうになる口を手で押さえた。
 どうやっても椿は顔を俯けたり、忙しなく回りをキョロキョロして視線が合いそうにもないと判断したので着替えるためにベッドから出た。
 もそもそと着替え始めると椿は更に目を泳がせ最終的に後ろを向いて固まった。着替えなんて普段見慣れてるだろうに。いつだったかそんなことを言ったら二人の時は別なんです。と何故か怒鳴られたことを思い出した。
 二人の時とかそういう恋人同士とかいうニュアンスの言葉が椿の口から出て笑いが止められなかったことも覚えている。フッと笑ってから椿を後ろからゆるく抱き締めながら肩口に顎を乗せた。
 それだけでヒィだとか短い悲鳴をもらしたので後頭部を小突いてやる。コイツにはムードもへたくれもない。まぁ、自分もだが椿ほどではないと思った。

「で、なんだって?」
「だっ、から…ゆき…雪ですっ」

 ふーん、とだけ返して椿の脇腹をさすると、申し訳程度に手の甲をつねられた。しかもその隙に逃げられた。

「雪…か、どうりで寒いと、」
「外っ外行きましょうよザキさんっ、今日は昼からですしっ」

 練習と付け加えてからいそいそとジャージの上を着始めた。寒いだとか面倒くさいだとか聞き入れられる前にジャージを渡され着るまもなく引っ張られ外に出た。



「げぇ、けっこう積もってる」

 雪は降ってはいなかったが、踏めば靴底の後がしっかりと残るくらいには積もっていた。

「わわっ俺らが新雪踏めますっ」

 まだ誰も足跡をつけていない真っ白な雪の上を、子どもみたいにはしゃぎながら足跡を増やしていく椿を見ながらも、自分は身体を少しでも縮め首を竦めて寒さに絶える。

「おい、さみーんだけど」
「はは、ザキさんおじいさんみたいですよ」

 椿のくせに可愛くないと思い、雪でも投げつけてやろうと思い雪を丸め椿に投げる。
 弧を描いて椿の後頭部にバッチリ当たったのを見て笑うと、椿も負けじとヘロい雪玉を投げてはくるが全く当たる気がしない。

「なんだよ、そのへっろい玉」
「うっ、わっ笑わないでくださいよっ」
「お前、田舎なんだから雪慣れてんだろが」
「なっ慣れてますよっ!」

 至近距離で投げてきた椿に流石に当たると、避けようと足を後ろに下げると、あろうことか視界がぶれて空を映した。ザキさん!という椿の声の次に自分に襲ったのは尻と腰への痛みと物凄い音だった。

「いっ……てぇ」

 痛さに声が喉から出なかった。ハッと気付いて椿を見上げるとぷるぷると、笑うのを我慢していますという顔をしていた。

「笑いやがったなつばき」
「やっ、笑ってないッス」
 なんていうかすごい派手に転んだなって思って。そう言ってからしまったと思ったのか口を手でおさえた。言ってからじゃ遅いっつーの。

「うっせ、雪なんて慣れてねーんだよ…いーから手貸せよ」
「う、あ、はいっ」

 焦ったように此方に手を伸ばしてきた椿の手を掴む。グッと力を込めると身体が浮く。ズボンが濡れていると感じて顔をしかめる。

「う、あれ?」
「はっ?ちょ、ばかっ」

 いきなり椿がぐらりと後ろに傾いた。咄嗟に椿を胸に引き寄せ身体を反転させてから重力に身を任せた。

「っ…」
「ざっザキさん」

 背中を打ち付けたが雪のクッションで少しだけ痛みが吸収された気がするが二人分の重みで痛いものは痛い。雪の上に転がった拍子に雪が舞って椿の黒髪に乗っかっては溶けていったのを横目で見つつ、溜め息をついて髪の毛をはたいてやる。すみませんと連呼する椿の髪の毛をそのまま引っ張る。

「おまえさぁ、雪に慣れてるつっただろ」
「なっ、慣れてますっ」

 そんな言い合いを暫くしていたが、ふ、と可笑しくなり、椿を上に乗っけたまま笑った。

「ははっ、おっまえ、信じらんねー、つめてー」
「ぷ、はは、すみません…普通だったら俺がそっちだったのに」
「まあ、スポーツマンだからな、」

 俺だってスポーツマンです、と口を尖らせて言う椿にまた笑ってから上半身を起こし、椿も一緒に立たせる。ジャージに凍みた雪に身震いしながらポケットに手を突っ込む。突っ込んだポケットもぐちゃぐちゃだ。あんなにはしゃいでいた椿も寒いですねと手のひらを擦り始めたので片方だけ手を出し椿の片手を握り寮へと足を進める。
 暫く黙ってついてきていた椿だったが寮の廊下にきて口を開いた。

「ザキさん…耳…真っ赤です」
「さっみーんだよっばか、風呂入るぞまだ昼まで時間ある」

 寒いから顔が赤いんだと釘を指し、クスクスと笑う椿を振り返って、ニッと笑う。ジャージも乾かすし、お前も一緒に入るんだぞと言うとビクリと手が逃げをうったが、逃がさないという風に握る力を強めた。

「ざ…きさん…人に…見られますよ、」
「まだ早いから誰もいねーよ、」
「…へへ…はい」

 照れたように笑う椿に顔が熱くなる。足早に自分の部屋に滑り込んで風呂場に直行する。椿の手を引いたままユニットバスにお湯をはる。椿に向き直り、腕に引き寄せると、二人分の冷えた体温がくっつく。暫く黙って椿をぎゅうぎゅうと抱き締めると段々くっついた部分から温かくなってくる。それに、餓鬼は体温高いなと一つしか違わないのにそう思ったことは口にはしなかった。

「さみー…」
「…ザキさん、」
「今日はジャージ代えの出せよ、あんだろ」
「は…い?」

 湯が半分くらい溜まった頃に椿を引っ張って浴槽にそのまま入り、シャワーを頭からかぶる。

「ぷあっ…ざっザキさん?」

 抱き締めたまま頭からシャワーを浴びながら気持ちいいだろと額と額をつけながら言うと、椿は呆れたようにはにかんだ。

「お前の実家、雪もっと降るの」
「へ、あ、はい。かまくらとか普通に作れますっ」
「へぇ、」

 そう言ってから椿のジャージのファスナーを下げる。雪の話を始めていた椿だったが驚いてこちらを見上げてきた。俺が脱がしてやるからお前も俺の脱がせろよ。と言うと目を見開いて顔を真っ赤に染めた。その反応に笑いながらも、早くしろとファスナーを指差す。

「っ…うう…」

 プルプルと震える手がファスナーに伸びてきて、その手を掴んで手のひらに唇を落とす。シャワーを片手で止めてから、椿の腰を抱き寄せる。

「今度、かまくら見たいんだけど、」

 唇を押し当てながら言い、閉じていた瞼を上げ椿を見る。面白いぐらいに真っ赤になって狼狽える椿が可笑しくて手を離してやった。ストンと身体の横に落ちた腕を伝い半分脱げていたジャージがズルリと水面に落ちた。
 それを拾ってから名前のところを見て顔が綻んだ。ローマ字表記の赤崎の文字。

「お前、俺のこと好きだな」
「へ、」

 なんか小さいと思った。そう言ってから自分もジャージと下に着ていたシャツを脱いだ。シャツ姿の椿は先程のジャージを手にして、違いますわざとじゃないですとかなんとか吠えてた。本当にわざとじゃ無いんだと思うがこれ見よがしに虐めてやる。

「はいはい、で、さっきの返事は?」
「うう……ざっザキさんが一緒に寒くても…かまくら作ってくれるなら…いっ、いーですよ」

 目をそらしながら言う椿に吹き出して、生意気言うなと椿のシャツを脱がす作業に取りかかることにした。



promise with snowman




(101228)
ツイッタ等でお世話になっております、まことさんに捧げます。こんなんなんですがm(__)mお話した内容からかけ離れてしまいましたm(__)m
雪の日のザキバキです。が、大変長くなってしまい。というか、ぐちゃぐちゃとやりたいことを詰め込みすぎたと大変後悔しております。まことさんに申し訳ないですm(__)m書き直し受け付けますので!!いつもこんなやつの相手していただいてありがとうございますっ!大好きです(^人^)←

壱汰

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