厚い硝子の向こうは、目の前が見えないくらいの雨。そして時折思い出したように吹き抜ける強風。
買い出しに来て出ようとしたら目の前がもうすでに見えない状態だった。これはヤバイと傘を買おうとしたのだが、傘争奪戦に勝てる筈もなく、今やむことを祈って雑誌を見ていたりする。店内は雨宿りにコンビニを選んだ人で溢れ返っている。
ずっとここにいるわけにもいかず、早々と濡れるのを覚悟でコンビニを後にした人が増えてきて、自分もその波に乗ろうと雑誌を棚に直した途端、名前を呼ばれた気がした。
「椿!迎えに来たぞっ」
「せ…世良さん?!」
声は聞こえるが姿が見えないとはこのことを言うのかと少し感心しつつも、声の主を探す。
世良さんは案外近くにいて(というか、人の波に入り口付近で押されていた)、直ぐに気がついたのか此方に走ってきた。
「椿ぃ、待たせたな!」
「世良さん迎えに来てくれたんですか?」
世良さんが全身ずぶ濡れなのに気づきつつも、そんな嬉しい言葉と笑顔にありがとうございます。と喜んでしまった。
「ま、傘は壊れたけどなっ」
「せ…世良さん…」
満面の笑みでバキバキになった傘を掲げる世良さんに、少しだけ肩を落としながら、濡れてますよとタオルを差し出した。
「すみません、ちょっと使ってますけど…?」
此方に頭を差し出してくる世良さんに首を傾げると、拭いて。と言われた。言われた通りわしゃわしゃと少し濃くなった金髪を拭いていく。
「俺いま落ち込んでる」
いきなりそんな言葉を紡がれて髪を拭く手が止まる。というか、世良さんの手が俺の手首をガッチリ掴んでいたのとタオルの隙間から覗く世良さんの瞳がギラリと光っていたからかもしれない。少しドキリとした。
「世良さん…?」
「かっこよくさ…迎えに来たかった、あと…相合い傘」
俺の手とタオルをのけて出てきた世良さんはいつもの世良さんで、口元を尖らせて目をそらす仕草は不貞腐れている顔だった。
「…俺は…迎えに来てくれたのが世良さんで…とても嬉しいですよ」
「ばっ……恥ずかしい奴」
世良さんが耳まで真っ赤にするもんだから、なんだかいけないことを言ってしまったのかと思い、すみません。と謝ると頭を叩かれて腕を掴まれた。
「帰るぞ」
「え、あ、」
「待ってても止まねーだろ」
むしろ俺等恥ずかしいし!野郎同士でイチャイチャ!とか叫んでコンビニを飛び出た。雨で全然前が見えなくて、でも世良さんの温かい手に引っ張られて無我夢中に走る。
世良さんは走りながら楽しいのか奇声をあげている。なんだか自分も嬉しくて笑いながら走ってる。端から見たら男二人が手を繋いで走ってるなんて酷い光景だが、どしゃ降りで誰も此方に気付かない。
「お前一人で走らすと俺追い付けねーから、俺の後ろ着いてこいよー」
雨の音に消されないように世良さんが大声で叫ぶ。それに、こちらも大声で、ウスッと返事をする。
「椿ー」
「あ、はい」
「好きだー!!」
「は……へ?」
暫くよくわからなくて返事が出来なかったけど、世良さんの手を握り返すことで返事とした。
アンブレラプリンス
(101203)
初のセラバキ。というか、セラバキセラ。この二人はどっちも受け受けしい。が、雄な世良を書きたかったけどなんか違う(^^)壱汰の住んでる地域が尋常じゃない豪雨で思い付いたネタ。アンブレラプリンスてなんてネーミングセンスの無さw
寮に戻ってから赤崎に頼まれていた雑誌がビロビロになってて二人して怒られればいい。←
というのまでかけなかった。
壱汰