出逢ってから、数回季節が廻り、いまもなお、こいつが隣にいることが不思議でもあり。当たり前のことだとも思う。それが幸せだ。なんて恥ずかしい言葉は言えないが素直に幸せだと感じられるようになった。これも、誰かさんのおかげだ。厄介なやつに惚れたものだ。
 赤崎は隣に腰掛ける人物を横目に見た。星を見上げる男…椿は馬鹿みたいに口をパカリと開けていて笑いがこみ上げてきた。それに気がついたのか見上げていたままの顔でこちらを椿が見てきた。阿呆面。小首を傾げて、綺麗ですねえなんて呑気に呟いてふにゃりと笑った。嗚呼、変わらないこの笑い方が好きだと思った。
「ざ…ザキさん?」
「…あ?」
 気がついた時には目の前に椿のデカイ瞳。驚いて今にも零れ落ちそうなくらい見開いている。そんな椿をお構いなしに至近距離で真っ黒な瞳の中を見つめる。その瞳の中に宇宙が広がっているみたいにキラキラしてて(街灯の光だろうけど)目が眩んだ。吸い込まれるってこういう感覚なのか、なんて頭の片隅で考えてたらフニリと柔らかい感触に、今度は俺が目を見開いた。
「な……」
 なぜそこでキスをお前からするのか。なんて言葉は生唾と一緒に喉の奥に押し込めて、その代わり深くため息を吐いた。あれ、違いましたか?なんて言葉を椿が吐きだして頬を染めて(薄暗くて見えないが確実だ)焦るのをみて芝生の上に投げ出されていた手の上に掌を乗せてぎゅうぎゅうと握り締めてやった。椿が息を詰めるのが分かって気分が高揚する。
「願い事…」
「え」
 椿の掌と自分の掌を合わせると湿っていた。それに気がついて離そうとするのを阻止して掌を組んで芝生に寝転んだ。必然的に椿も芝生へと引っ張った。
 満天の星空、天の川。なんてものは拝めなかったが、今年の七夕は晴れだ。うちの7番は今日も今日とて、自主練習に勤しむので、迎えに来た。このサッカー馬鹿があとちょっとだけなんてことを言うから、自分も一緒にやっていてとっぷり日が暮れて今に至る。
「お前、サッカーがしたいってなんだあの願い事は」
「え…え?…見たんスか!」
 何をそんなに驚くのか、クラブハウスの無駄にデカイ笹に引っかかってたじゃねえかと言うと、でも、とか言いながらぐずり始めた。もう帰りましょうとかなんとか言い始めたけどしばらく黙っておくことにした。
「ザキさん…寝ちゃったんスか?」
「…」
「うー……あっ…あれ…なんて言うんスかね…えーっと、夏の…夏の…」
「ぶはっ…もーダメだわ…」
 くつくつと腹を抱えて笑う俺に椿は起きてるじゃないですかとぎゃあぎゃあ言いながら襲ってきた。のしりと椿が俺に跨ってきて馬鹿にするの酷いッスなんて言ってきた。なかなか大胆なことをしているんだけど、と言うと暫くなんのことか分かっていなかった椿がいそいそと俺の上から退こうとしたので、腰を引っつかんでやった。
「ちょっ…擽ったいッス!」
「夏の大三角形…」
「へ」
 椿越しに星を見上げる。椿の言いたかったソレはまだ登り始めたばかりで見えない。それでも、そうッス!それです。なんて嬉しそうにはにかむもんだから、訂正は今度にしようと思う。掴んだままの椿の手を引っ張って、体制を崩す椿の唇にさっきのお返しとばかりに食むようにキスをした。案の定逃げを打つ椿の両腕を引っ張る。焦る椿を見て笑う。こんな日常があと何年、何日、続くかなんて分からない。もしかして今日で終わってしまうかもしれない。サッカー以外興味なんてないと思ってた。いや、サッカーをしている椿だからこそ、自分は好きになったのだろう。普通だったら、それは酷いとかなんとか言うだろうが、椿に言うときっと同じ答えが返ってくるだろう。もしくはもっと酷いかもしれない、なんて。
「さて、帰るか」
「さっきから帰ろうって言ってるッス」
「はいはい、椿さんは俺に文句言えるようになりましたねえ」
 手を離してやるとすぐ様、俺からおりてボールを抱えた。俺は服の汚れをはたきながらそんなことを言う。すると椿がこちらを振り返る。
「赤崎くんは、俺に甘えてくれるようになったッス」
 なんだそれ、反則だろう。そんな照れたように笑われて、こっちが照れないわけない。本当にやめて欲しい。俺は片手で顔を覆って天を仰いだ。掌がジワジワと熱くなってくる。指の隙間から見た宇宙はさっき見た椿の瞳と同じだった。

夏の大三角形



(140707)
甘ったるいザキバキを書こうと思って収集がつかなくなりました。イベントものは難しい。

壱汰
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