最近気がついたことがある。どうも、椿に好意をもたれているらしい。好意と言っても、友達や先輩といった好意ではなさそうで、それがないわけではないが、それよりももっと…。一言で言えば恋愛の類だ。

「なあ、湯沢」
「なあにりょーちゃん」
「やめろきしょくわりい。」

 酷いと言いながらクネクネしだした湯沢の後ろ頭を足で小突き手の中で弄っていた携帯をベッドへと放り投げた。

「あんだよ、早く用件言えよう」
「俺にちょっと好きだとかなんとか言ってみろ」

 あ。ちょっとベッドから遠ざかりやがった。人のサッカー雑誌まで床に落として湯沢は臀部で床を擦りながら前に進もうとする。
 赤崎は湯沢のパーカーのフードを引っ掴みベッドへと引き戻した。

「ひぃいやめて…俺お前の気持ちには答えかねるっ」
「俺だって答えかねるわっ!」

 そうじゃねーんだ。とりあえずちょっと言ってみろ。と、いつも偉そうな赤崎が顔を伏せってごにょごにょと宣う姿が面白くて湯沢は少しだけ吹いた。じろりと睨まれて、タメのよしみですなんて言って咳払いを一つ。

「す…好きだ」

 至極真面目に努めたが目の前には同い年のしかも男。噛まずにいられるか。

「き…」
「き?」
「きもい!」

 今度はベッドの上でのたうちまわり、壁際に背をつけこちらを軽蔑の眼差しで見つめてくる赤崎に湯沢は落っこちていた雑誌を投げ付けた。それをヒョイとかわしながら腕を擦りキモかったと連呼する。

「鳥肌たった…帰っていい俺?」
「ここお前の部屋だっつーの!こちとらサブイボまだおさまんねーわ!」

 もうやだ俺こんなツッコミいれるようなタイプじゃないのに。と、両手で顔を覆い泣く真似をする湯沢にため息をつきなんか違うなと呟いた。

「誰かに告白でもされたの」

 茶髪キノコ頭の男が指の間から目を覗かせる図はかなりシュールだと思いながらも、湯沢の言葉を反復する。

「されたっていえばされたし。されてないっていえばされてない。」
「なにそれめんどくさい」

 泣き真似をやめて興味がなくなったのかまたベッドのステンレスに背を預け雑誌を読み始めた。こいつのあまり人に執着しない面倒くさいことが嫌いな性格は一緒にいて楽だが、こういう時腹が立つ。俺は自慢ではないが自己中心的だ。

「ちゅーかさ、気になって夜も眠れないようじゃあ、お前の方も大分意識してんだろってことじゃない?」

 クマすごいことになってるよ。
 上半身だけこちらに傾けて湯沢は自分の目の下を指で触った。口元がニヤニヤと世話しない。こいつ楽しんでやがる。

「俺はタメのお前と可愛い後輩がどうなろうが興味は無いけど、お前が頭ピンクになって戸惑ってんの見るのは面白くて好ましいよ」
「…は」
「あと可愛い後輩泣かすようなことしたら裸で練習参加な」
「…おまえどこまで知って」

 雑誌で口元は隠しているが目が笑ってる。

「シャキッとしろよ、赤崎」

 好きになったらもう終わりだよ。
 そう言った湯沢はチラリと時計を横目にみて、そろそろ世良さんとの買い物から帰ってくるんじゃないのと言いながら雑誌に視線を落とした。

「湯沢、」
「はーい」
「部屋の中探ったらぶっ飛ばすからな」
「オッケー、AV探しとく」

 ベッドから飛び降りて上着を引っ掛けてドタドタと忙しい部屋の主はドアすら開け放って行ってしまった。ドア閉めるの俺かよと肩をすくめて、よっこいせと腰を上げると赤崎の携帯が鳴る。忘れるなんて余裕ねーなと鼻で笑ってディスプレイに表示された名前をみて今度こそ声をあげて笑ってしまった。

「ほんと、飽きないよなあ」

 さあ、俺が速いかあいつが速いか試してみようじゃないの。
 湯沢はディスプレイを指でスライドさせ耳に当てて笑みをこぼした。



好きになったらお終い



(130217)
エア浅トラ記念。
湯沢が振り回される話を書きたくて。
ザキ←バキって絶対椿を簡単に幸せにはしてあげたくなくなっちゃうんですが、今回はコロッと傾く赤崎です。きっと赤崎も最初から好きだったんだよっていうね。
湯沢書けたから満足。当初の予定はユザバキだったのに。しかし湯沢のキャラ崩壊。

壱汰

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