03
 所詮は、代わりだって分かっていたけど。優しさに触れてそんな当たり前のことを忘れそうになっていたのも事実で。身の程知らずもいいとこだ。



「ほら、水」
「ありがとうございます…」

 喉が渇いて咳が出た。それを気にしてかザキさんが水を手渡してくれた。気怠い身体をのそりと起こして壁に背をつく。クラブハウスの一室でいきなり求められた身体は拒むことなど到底できなくて、声を押し殺して突かれる悦びを感じたのがほんの数分前。頭が酸欠でボーッとする。少しだけ身じろぐと体内に吐き出された精液がドロリと孔から溢れた。

「っあ……」
「…なにやらしい声出してんだ」

 吹き出すように笑ったザキさんを恨めしげにみてテッシュを探す。すると頬に温かいタオルを押し付けられて変な声を出してしまった。それにまた吹き出すように笑ってザキさんは俺の前髪を掬った。そういえば少し伸びていたなあと前髪を触ろうとしてザキさんの指に触れた。驚いて手を離してしまった。不自然に思われただろうか。顔が見られない。

「つばき…」

 ザキさんの言葉を遮ってザキさんの携帯が鳴る。電話のようだった。ディスプレイを見て一瞬息を詰めて、直ぐにタッチして耳に当てた。

「世良さん?」

 ドクリと心臓が跳ねた。携帯を奪うというイメージが頭の中に湧いては自分の手に爪を立てる。なんて嫌な奴なんだ。
 シンとした部屋。携帯の向こうの世良さんは泣いているようだった。部屋から出ようと踵を返した瞬間、聴こえてしまった。

「赤崎、助けて。」

 数秒前に、血相をかいたザキさんが俺の
頬を撫でて出て行ってしまった。俺はどんな顔をしていたのだろうか、ザキさんの眉を顰めた顔が頭から離れない。なんでそんな顔を俺に向けるの。可哀想に見えたのか。なんにせよ、涙も出ない。もう、この関係も終わりに近づいているんだなと、そう思った。
 投げ出した脚の間からは、さっきまで彼がここにいたという証が残っている。体内から出たそれを指先ですくいあげると、指の隙間からぬるりと垂れ落ちボトリと床に白濁が爆ぜた。その様をみて無性に心の臓が痛んだ気がした。
 心が叫ぶ。悲鳴をあげるのが分かる。震える唇から空気が漏れた。

「たすけて、」


(130224)




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