真夜中、隣に寝ていたら携帯(たしかそんな名前だった)がチカチカと点滅しだした。綺麗だなあと見ていたら、燐がもぞもぞと動いて携帯を手探りで探してた。
「りん…ここ、ここだよ」
「ん、」
携帯を頭で燐の手元に押しやるとありがとうの変わりに喉を擽ってくれて気持ちよかった。携帯が丸まった布団の中に入っていくのを見て、俺も燐の顔が見たくて、一緒に潜ることにした。携帯とにらめっこしている燐の顔はボヤーっと光っていて、頬っぺたに頭を擦り付ける。きっと撫でてくれるんだと思ってたんだけど、燐は布団から抜け出した。何でか分からなくて首をかしげると燐の優しい手のひらが降ってきた。
「わり、ちょっと…外行ってくる」
グリグリと頭を撫でられて、良い子で待ってろな。なんて言われたから、一緒に行きたい!と言ったら燐が笑った。暗闇でも燐が困ってるのが分かった。
「クロには、雪男が起きないか見ててほしいなあ」
「りんのやくにたつ?」
「うん、すっげー助かるな」
燐はそう言ってまた頭を撫でてくれた。布団の上にちょこんと座って尻尾を振ると今度は飛びっ切りの笑顔をくれて、静かに部屋を出ていった。
燐が帰るまで寝ない様に布団の上でも歩いていようと一歩踏み出した瞬間に、またピカピカと携帯が光りだした。燐が忘れていったんだなって携帯を覗き込む。小さい窓に名前が表示されてた。俺、文字ちょっとは知ってるんだ。燐が教えてくれた。点滅し終わった頃、漸く名前が分かった。もしかしたら、燐は会いに行ったのかなとか思ったら、雪男のこともお留守番のことも一気に忘れちゃって、燐の後を追いかけた。
俺が嫌いだって言ったら燐は悲しそうな顔をした。それでも俺は、あのピンク色のことを好きにはなれない。
あのピンク色と一緒にいるときの燐はとっても嬉しそう。燐が嬉しいと俺も嬉しいのに、何でかその時は胸がきゅうきゅうと痛む。俺病気かなって燐に言ったらぎゅって抱き締めてくれたっけ。
でも、今は燐がピンク色に抱き締められててなんだか出るに出られなくて、木の影に隠れた。何を話してるのか耳をすます。
「なん、もう帰らはるの?」
「ん、クロ…寝ないで待ってるだろうし」
燐の口から俺の名前が出てびっくりしたけど嬉しかった。
「嫉妬してしまいそうやわ、」
「ばか……いきなり会いたいなんてさ、明日会うじゃん」
「そういーますけど、来てくれはったやない、奥村くん」
あのピンク色は燐の耳元で何かを喋って、真っ赤になった燐をまたぎゅうぎゅう抱き締めてた。次には燐の手を掴んで口元に持っていく。
「気障…変態…」
「本望ですわあ」
「馬鹿、…お休み」
「…奥村くん」
寮に向かって歩きだした燐にピンク色は手を引っ張って燐の顔に顔を近付けてた。何をしたか分からなかったけど、燐はパッと離れてまた馬鹿変態とか叫んで、小さくお休みと言って走っていってしまった。追いかけようとしたけど、声をかけられて止まってしまった。
「いてはるんやろ、黒猫さん、奥村くんは、お返ししましたよ」
恐る恐る出ていくと腰を屈めて此方に手を伸ばしてくる。それにプイッと顔を背けると、えろー嫌われましたわと笑っていた。俺はこのピンク色…志摩が嫌いだ。燐を一人占めする。だから嫌い。
「おあいこでっせ、黒猫さん。そない怒らんといて…堪忍なあ」
初めて話しかけられてびっくりした。志摩が燐といるときはほとんど俺がいない時だから。違う。俺が避けてた。嫌だったんだ。燐のあんな幸せそうな笑顔。俺がさせてるわけでも向けられてるわけでもない。だから志摩の声を聴くのもどこか新鮮だった。優しい声だった。
気に食わないけど、ちょっとだけなら触らせてやると、足元に近づく。
「お、ライバルとでも認めてくれはったんです?」
頭を優しく撫でながら言われた言葉は初めて聞く言葉でなになに?と聞いたけど燐以外とは話が出来ないんだと思い出した。でも志摩は俺も黒猫さんも奥村くんが好きなんやから、ライバルですね。ってそう言ってにっこり笑った。通じてないけど話してるみたいだと思った。
ライバル。よく分からないけど、燐が好きってことだ。俺も燐が好きで、志摩も好きなんだ。
「ほら、黒猫さん…早よう奥村くんとこ戻ったってください、心配してはりますえ」
そう言った志摩のポケットから音楽が流れて、志摩は携帯を取り出して笑った。奥村くんが黒猫さんおらんゆーて電話かけてきはったよ。戻ったりい。志摩はもう一度頭をゆっくり撫でてお尻を押してきた。俺はにゃあと鳴いて、燐のもとへと走る。去り際に見た志摩は燐からの電話に出て嬉しそうに笑っていた。俺も早く燐に会いたくてスピードをあげる。寮の前で燐が電話しながら待っていた。
「りんー」
「クロ!」
燐の腕の中に飛び込むと優しく抱き止めてくれた。お前いないから驚いた。心配させんな馬鹿って言われて、ごめんなさいと謝る。
「あ、ありがと志摩…帰ってきた…うん、また明日。お休み」
燐は志摩とお話し中だったみたいだけど燐に好き好きと擦り付いた。すると、燐はお前等って何か似てるよなあと携帯を閉じてから両手で持ち上げられた。
「にてないよー」
「はは、似てる似てる」
じたばたと暴れてまた燐の胸の中にダイブする。鼻先を燐に擦り付けると志摩の匂いもした。前までは凄く嫌だったけど、今は不思議と嫌な気持ちは無くて、これはきっとライバルだからだと納得して、志摩は嫌いな奴からライバルに変わったんだと燐に話すと、燐は嬉しそうに笑っていた。俺もなんだか嬉しくて笑った。
幸せセンチメンタル
(0522)
しまりん+くろ 可愛くないですか?凄く好きなんですよね(^ω^)なんだか乙女燐がいるようないないような…とりあえずしまりん好き← あ、廉燐か。
黒猫さん呼んでたけどクロゆーてますよね志摩は。なかようなってからクロよびで。
壱汰
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