(※長い) 「やば、」口を開けたまま、ただ放心状態の私に母が「どうしたの?」と尋ねてくる。 「明日の時間割り紙にメモるの忘れた」 「あらら」 「どうしよう」 「友達に聞けば良いじゃない」 「いやでも今21時過ぎだよ?」 「ちょっとフライングしてるけど電話したら?」 「え、でもー…」 「電話しないで困るのはあんただよ」 「そうだよね!聞いてくる!」 ダッシュで自室に戻り、先程まで机の上で充電していた携帯を充電器から取り外し急いで操作キーを押す。電話よりメールの方が好きだけど今はそんな事構ってられない。とりあえず、同じクラスの親友に電話をする。 「ただいま電話に出る事が出来ません」 ブツッ、ツーツーツー。おい、親友。滅多に電話しない私が電話してるのに留守電ってどういう事よ。…しょうがない、他の人に電話しよう。携帯の電話帳を漁り、同じクラスの人を手当たり次第に探して電話をする。…だが、「ただいま電話に出る事が出来ません」はい?先程からどの人に掛けても留守電、留守電、留守電。私への嫌がらせか何かですか?何でみんな出ないのよー。 ある人物を除いて最終的に私の電話帳に載ってる同じクラスの人全員に電話した。なのに、結局誰一人として出なかった。正しくは、めちゃくちゃ電話したくない同じクラスの人物が一人だけ残っている。…でも、そんな事言ってたら時間割り聞けないし…。少し考えてから渋々諦めてその人物に電話を掛ける。 「もしもし」 「もっもしもしっ、か、か風丸くんですか?!」 「ぷっ、俺の携帯に掛けてんだから俺しか出ないだろ、名字」 「で、ですよね」 そう私が電話したくなかった人物は、風丸くんである。風丸くんは私の好きな人で、普段から緊張して上手く話せないから絶対に電話したくなかったのにな。あはは、さっきも声が上ずっちゃったよ。風丸くん笑ってたし…。 「どうしたんだ?」 「あ、あの時間割りを、」 「書き忘れたのか?」 「は、はい」 「ははっだろうな。名字の事だからそうだと思ったよ」 「えっ、」 「今、教えるからちょっと待って」 「う、うん」 私は確かに今までにも何度か時間割りをメモり忘れた事がある。だけどそれを風丸くんは何故それを知ってるの?勿論、風丸くんと話せない私は風丸くんに言った覚えは無いし、親友が言ったのかな?いやでも、風丸くんにそれを言ってあいつには何も得は無いしな。うーん、と考えながらも紙とペンを用意してスタンバイする。「じゃあ言うからな」好きな人の声が耳に届き考え事が一気に飛ぶ。聞き漏らさないように、耳をすまして紙にメモる。 「で、終わり」 「ありがとう」 「くすくす。どういたしまして」 「は、はい」 「名字ってさ、いつも元気で楽しそうなのに俺の前では挙動不審でしおらしくなるよな」 「あ、えっと、いや、その…」 「ふふ、大丈夫。怒ってる訳じゃないからな」 「うん?」 なんだろう。怒られてる訳じゃないなら何?これまたうーん、と考えてると風丸くんが爆弾発言をする。 「俺さ、名字の事可愛いと思うよ?」 「かわっ?!」 「あははっ!何だよそれっははっ」 「だ、だって風丸くんがからかうからっ、」 「からかってないよ、俺の本心だ」 「あのっ、ま、また明日ね!」 「ああ。おやすみ、また明日な」 恥ずかしさの余り慌てて電話を切ってしまった。風丸くんってあんな事をさらっと言う人だったっけ?その日はずっとその事だけを考えてて思うように寝れなかった。 20100820 |