まだまだ暑い夏は続いていて、私が歩いているこの廊下にはぽかぽかと言うよりギラギラとしたなんとも言えない陽射しが差し込めていた。背中がじとりと汗ばんで気持ち悪い。「名字さん」肩を軽く叩かれ名前を呼ばれて振り返ったら「ぎょええ!」麻呂眉さん基、成神先生が居た。


「ぎょええってなんだよ」
「…ぎょええはぎょええです」
「意味わかんねーよ」
「あでっ」


一瞬の間に華麗な手捌きでデコピンを喰らわされてしまった。気まずいから避けていたのに…。ヒリヒリするおでこを押さえながら、私の中のデコピンが痛い人ランキングで1位の佐久間先生の次に見事、成神先生がランクインする。


「名字さんってさ、」
「なんです?」
「こないだ会った子だよね?」
「…えーっと。な、なんのことでしょうかね?」
「そんなあからさまに目を反らしたらバレるって分かんないの?」
「わしゃあ、何の事だか皆目見当もつきませんわ」


「お前誰だよ」と言いながらまたデコピンを喰らわされる。ああ、これは完全に苛められている気がする。執拗に私を苛めてくる事を考えるとあの時の仕返しと言えそうだ。なんだろ…佐久間先生の後輩なだけあって私を苛めてる時の成神先生の顔ってあの憎たらしい程のあくどい顔の佐久間先生に似てる気がしないでもない…。この間の事、一応謝っといた方が良いのだろうか。まあ謝っといた事に越した事はないのだが、なんか謝るという行為がなんとも癪に触る。でも後々の事を考えるとやはり謝っといた方が良いと頭が結論付けた。


「あの時はその…すみません、でした」
「いや別に気にしてないけど?」
「えーなんだよー…じゃあ私の謝罪の気持ち返してくださいよー」
「知らねーよ」


くそう麻呂眉め…素直に謝ったのに…。軽く拗ねながら睨めば「ははっ」と笑って頭を撫でられた。ああこれが南雲先生だったらどんなに嬉しい事か。頭をわしゃわしゃにされながらそう思う。…そういや成神先生って私みたいに佐久間先生に苛められた事あるのだろうか?


「成神先生は佐久間先生に学生の頃苛められてました?私みたいに」
「ん、あーそうだな。…まあ苛められてたな(俺も佐久間先輩苛めてたけど)」


やっぱり!私と同じ境遇なのね!なんだか嬉しくて思わずガッツポーズをとる。そんな私を見て笑う成神先生の顔は年の割りには幼い顔立ちが更に幼く感じられた。極度の童顔だなこりゃ。


「佐久間先輩が女の子だったら可愛げがあるから許せたんだけどなー」
「あははっ!それは言えてますね」
「だろ?」


確かにそうだと頷く。佐久間先生が女の子だったらそりゃあ可愛いだろう。モテモテだろう。私が男だったら間違いなく惚れる気がする。そんな事を考えていたら「名字!」と名前を呼ばれ腕を引っ張られた。


「っ、南雲先生…?」


振り返れば南雲先生が居て、驚いてるのはこっちなのに何故か南雲先生も驚いた顔をしている。「ど、どうしたんですか?」「あ、いや…」少し吃ってる南雲先生がとても可愛らしい。


「……理科、サボるなよ。あれ以上風介の前髪ガシガシさせたら本格的にハゲるからな」
「ふふっ…良いじゃないですか私、涼野先生のハゲた姿見てみたいですもん」
「そ、それもそうだな」
「あはは!」


南雲先生と他愛無い会話をしてる楽しい一時に無機質なチャイムが残酷にも鳴りだす。もう少し南雲先生と居たいのに…。ま、次は理科だしどうせサボるから南雲先生を見てられるけどね。


「ほらチャイム鳴ったっスよ」
「…あ、ああ」


成神先生にそう言われ小走りでグラウンドに向かう南雲先生の背中を見つめる。さて、私も行かなきゃ。踵を返して南雲先生に着いて行こうとしたら「よし、じゃさような「行かせませんよ」…おい離せよ」虚しくも体をがっちりホールドされる。


「俺、理科の先生だぜ?そうみすみすサボらせるか!それにお前がサボりの常習犯だって事は涼野先生から聞いてるんだからな!」
「チッ…あのガシガシ野郎…余計な事言いやがって!」
「コラッ!おとなしくしろ!」
「うるさい離せ!私は南雲先生を見に行くという義務があるんだー!」
「そんな義務ありません」
「あります!」
「大体、そんなの誰が作った「私に決まってるじゃないですか」……だよな」


ギャーギャー揉めながら、お互い一歩も退かず吠えていると「おーおー成神やっちまえ!」と佐久間先生と苦笑いしてる源田先生が通りかかって煽り始めた。


「黙らっしゃい中二病!」
「っんだと?!」
「まーまー佐久間落ち着けって」
「つーか助けてよ!」
「やだね!ぜってーお前なんか助けてやらねえよ!」
「っにゃろう!」
「ざまぁみろバーカ!俺の授業を寝るから罰が当たったんだろ!ハッハッハッ!」



「なんだ名字今日はサボらないのか」


名前通り、涼しい顔して私を見る先生に納まらない怒りが更に込み上げてくる。クラスの奴らは、私が理科の授業に出てるのが珍しいのか大きさや形が疎らなみんなの目が私を見て見開いている。…なんだこの野郎。この怒りを君らにぶつけてやろーか。
結局、あの後源田先生が佐久間先生を宥めて私は男性のしかも大人の人の力に勝てる訳もなく、無理矢理成神先生に連れて来られた。…ちきしょうめ。これからも理科の時に南雲先生に会いに行く事をこの麻呂眉に止められるのかと思うと欝だ。サボらないのかと問う涼野先生に眉間に皺を寄せながら言葉を返す。


「えーまあ…かくかくシカジカ四角いムーブですよ」
「意味の分からない言葉で略すな」
「成神先生に無理矢理ヤられました」
「字違えよ」
「痛い!」
「はあ…もう良いから座れ」
「…へーい」


それから理科の授業中ずっと麻呂眉に見張られてて逃げ出そうにも逃げ出せれず、結局面倒な理科の授業を最後まで受けるハメになった。授業中、終始私に問題を当てて来たあの勝ち誇った涼野先生の顔を私は一生忘れないだろう。



成神先生は佐久間先生より質が悪いって分かりましたよ、先生!


「うわああん!親友の名前ちゃーん!」
「あら…なしたのよ?」
「麻呂眉がうざいよー!助けてー!」
「はあ?」

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