ふと、目を覚ましたら暗闇の世界に俺は包まれていた。
隣には、もう姿も温もりも何一つ残っていない。かろうじてあいつの甘過ぎない香水の香りだけが少しだけ主張しているだけだ。…いつ出て行ったのだろうか。いつもなら居間のドアを開ける音で覚めるのに、今日は覚めなかった。居間のドアを見つめていた横目に、カーテンの隙間から微かに漏れる月の光が移り、それがやけに綺麗に見える。手探りで携帯を探し、ディスプレイを見れば時刻は既に2時を回っていた。行為が終わって寝ていたとしても、未だ抜けない情事後特有の気怠さを抱えながら体を起こす。ベッドの脇にある小型の机に手を伸ばして、煙草を無造作に箱から取り出せばラスト一本な事に気付く。…これで最後じゃねえか。買いに行かねえとな。と考えながら火を付け、肺いっぱいに煙を吸い込む。吐き出した煙がゆらゆらと天井に昇って行くのをぼんやりと見つめる。

ひとりきりになった部屋に、響くのは時計が時を刻む音だけでとても静か過ぎて、柄にもなく寂しくなる俺はいつも決まってお前が一番好きだと言っていた曲をゆっくりと口ずさむんだ。


「さよなら…ああ…あなたが好きで…絡めた思い…真っ赤な糸……ほどけて…ああ…魔法が解けた…僕は独りで…歩いて…いけるかな」


確か…失恋の曲だとか言ってたな。これを歌う度に、寂しさは余計に増して胸を突き刺すだけの凶器なのに、これを止めれる方法を俺は知らねえ。


「さよなら…ああ…あなたが好きで…絡めた思い…真っ赤な糸……ほどけて…ああ…魔法が解けた…僕は独りで…歩いて…いけるかな」


歌詞もメロディーも、自分が覚えてる部分だけを何度も繰り返しながら頭で名前の顔を思い出す。


「さよなら…ああ…あなたが好きで…絡めた思い…真っ赤な糸」


真っ赤な糸か…。ふと、左手をかざしてみた。俺は…名前と繋がってるのだろうか。今まで赤い糸なんて信じてなかったし、どうでも良かった。それなのに、今は赤い糸に縋ってる俺が居る。名前と繋がっていてくれ。願うはただそれだけ。


「……さよなら…ああ…あなたが好きで…絡めた思い…真っ赤な糸……ほどけて…ああ…魔法が解けた…僕は独りで…歩いて…いけるかな」


所詮、俺と名前の関係などセフレという名前にも相応しくない関係だ。恋人でもなければ友達でもない。だからと言って自分の欲を満たす為だけの一週間に一夜限りの関係でもないと俺は言いたい所だが、名前はどうか分からない。
ついこないだに、「お互い恋人が居る訳でもないんだから付き合ってしまえば良いだろ」と、運悪く名前が家から出て行くのを龍ちゃんに見られた時にそう言われた。

恋人…か。出来れば俺だってそうなりてぇとは思ってるぜ?でもよ、現実はそう甘くねえんだよ。名前は一途な女だからな。未だに死んだ彼氏だった男の事が忘れられないでいるんだよ。
だから、俺とセックスしてる時にたまにだがそいつの名前を呼ぶ事がある。その度に俺が傷付いてるなんて分かってねえんだろな名前は。まあ分かる訳ねえか。


「さようなら…ああ…」


もし赤い糸があるのなら俺と名前が繋がっている事を願う。が、もし別の奴と繋がっていようものならこの左手はくれてやる。そうして余った右手で俺と名前を赤い糸で繋ごう。


「さようなら…ああ…」


さようならなんて頼まれてもしてやらねえよ。


Song by 真っ赤な糸/Plastic Tree


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