(※男性恐怖症?男性不信?いいえ、男性嫌いです。の続き)


今日もまた俺は名字の告白されてる場面を影から見ている。しかっかしまあ、良くもあんなに告白されるもんだな。1週間に1度は告白されてる気がするぞ。中にはフラれても何度も立ち向かって行く奴も居るし。最早、感心を通り越して呆気に取られてしまう。


「はあー…」


そんな俺の後ろから目障りなほど盛大な溜め息が聞こえてきた。振り向かなくとも、その溜め息の人物が誰かは分かる為、振り向かず会話を投げ掛ける。「んだよ源田」「はあ…またやってんのか」二度目の溜め息を漏らしながら俺の隣に来た源田を睨む。


「またで悪かったな」
「ストーカーじゃないんだからいい加減止めたらどうだ」
「名字の身を守る為なら俺ぁストーカーになる」
「止めろ。名字が可哀想だ」


そう言って俺と同じ様に名字を見る源田。俺にストーカーになられるより、この世で一番嫌いな男に言い寄られて涙目になってる方が俺はよっぽど可哀想だと思う。ほら現に今だって、男が目の前に現れただけで涙目になってる。俺が名字のストーカーになるより断然可哀想じゃねえか。


「…まあ、その、なんだ…一応頑張れよ」


言葉を濁して苦笑いを浮かべる源田を横目に見て、今度は俺が溜め息を吐く。何をこれ以上頑張れと言うのだ。毎日、毎日野犬共から名字を影から守ったり、野犬共を蹴散らしたり、ここぞと言う時もそうじゃない時も名字に話し掛けたり、朝早くに家を出て名字の通学路に先回りしたり、名字の好きな菓子とか買ってきて不自然に見えない様にさりげなく「俺、これ好きなんだけど名字も食う?」とか言って同じ話題に食い付かせたり…。俺は女か!って思う様な努力を重ねてきたと言うのに、これ以上頑張ってしまったら確実に俺は名字のストーカーになっちまうだろうよ。


「あれ?佐久間くん…それに源田くん?」


下を向き、拳を握って悶々と考え事を馳せていたら大好きな声が俺の名前ともう一つ余計な名前を呼ぶ声が離れた場所から聞こえた。「よう…名字」顔を上げるとやっぱりいつも通りの遠い距離に名字は居た。


「どうしたの…?二人してそんな所に…」
「今なサッカー部でかくれんぼしてるんだよ」
「そうなんだ!…サッカー部って仲良しなんだね」


上手く源田がここに居た言い訳を繕ってくれたお陰でなんとか助かった。でも、名字…騙されるな。決して俺らサッカー部は仲良しな訳じゃねえぞ。寧ろ、毎日が啀み合いしかしてねえからな。…まあ主に俺と成神とか辺見なんだけど。「じゃあ俺行くな」気を使ったのかそう言って颯爽とこの場から居なくなった源田。爽やに笑いやがって…イケメン気取りかこの野郎。それでも二人きりにしてくれた事には少しだけ感謝をするか。


「あ、あのさ…佐久間くん」
「ん?」
「…私の勘違いかも知れないんだけど」
「うん」
「佐久間くんっていつも私を助けてくれるよね」
「へ…」


「そ!その…なんで、かなって…思いまして…」語尾に行くに連れてどんどん声が小さくなっていく名字に思わずきょとんとしてしまう。恥ずかしいのか頬を薄く赤らめるその姿がなんとも可愛いらしいが、名字の言動が気になる。


「助けてくれるとはどういう場面で?」
「あ、あのほら…教室で男子に話し掛けられた時とか、私吃っちゃうでしょ?」
「ああ」
「そこを助けてくれたり…他にもいっぱい私が困ってる時にはいつも助けてくれたりしたから」


ああ成る程。名字が言いたい事は全部わかった。良かった…一瞬、俺のやってる事が裏目に出てついにストーカーと間違われたのかと思ったぜ。安堵の溜め息を漏らす俺に名字は頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。


「俺は名字の友達なんだからそれくらいは当然だろ?」


半分あってるが、もう半分は俺の下心ありの行為だがなと心で付け足しておく。俺の回答に一瞬驚いた様な顔をしてから直ぐに笑顔になった名字がなんとも言えないくらいに可愛い。


「ありがとう。優しいね佐久間くんは」


本当の俺は優しくなんかないぜ?名字の前だから優しいんだ。勿論、俺が名字に優しいのも名字を助ける行為をするのも全て名字が好きだからという単純な動機な訳で。


その単純な動機を糧にして俺は生きている。


題:藍日

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