「あ!」
「あ?」
「ちょっと隊長!身長伸びたんじゃないですか?」


そう言う私にムカついたのか隊長はいつも以上に眉間に皺を寄せてこちらを見ている。「ほら!」椅子に座っている隊長の腕を引っ張り、たまたま前に乱菊さんが執務室に持ってきて置きっぱだった縦長の鏡の前に立つ。


「ね、ね!身長伸びてますよね!」
「ああ、お前の身長がな」
「へっ?」


「う、嘘だあ」「嘘じゃねえよ!」「ちょ、痛い痛い痛い!」目が泳いでるいる私の髪の毛をぐいぐいと引っ張る隊長。どんなに抵抗しても、私より小さいその体のどこから出て来るか分からない力で引っ張り続ける。「禿げる!絶対禿げる!ねえ禿げるってば!」「禿げろ!」「酷い!」


「ったく…」やっと離してもらえたけど、まだ引っ張られてた部分の頭皮がじんじんと痛んでいる。


「うう…ほんとに禿げたらどうしてくれるんですか」
「知らねえよ」


椅子に座って仕事を再開し始めた隊長を背に私は長椅子に座り、もう温くなってしまったお茶をわざと音を立てて啜る。ふと、隊長に「それよりお前も仕事しろ」と言われたけどそこは敢えて無視した。


「てめえ…無視してんじゃねえよ」
「…乱菊さんだって仕事してないじゃないですか」
「松本はほっとけ」
「それ贔屓って言うんですよ」
「阿呆か」


ぷうっと頬を膨らませ、いかにも怒ってますアピールをするが隊長はそれに目も向けてくれず、黙々と仕事をしている。なんだよ…隊長のバーカ。脳内で悪態を吐いても、勿論聞こえてない隊長の視線は紙に向けられたまま。私、愛されてない気がする。ちくしょう…。「ぐすん」と聞こえるか聞こえないくらいの音量で呟けば背中に重みがのしかかる。


「重いです隊長」
「本当お前はうるせえ奴だな」


「構って欲しいならちゃんとそう言え」後ろから抱き締められているから私の耳元に隊長の声がダイレクトに聞こえる。「これでも松本より名前を贔屓してるつもりだけど?」あれ?私意外と愛されてるじゃん。





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