(※長い)


気付けば季節は巡って、ついこないだ春が来て卒業生になったと思ったら、また春が来て、俺達は今日この鈴蘭を卒業する日を迎えるまでになった。

この落書きだらけの破壊され放題の鈴蘭に似つかわしくない綺麗な桜が満開と迄はいかないけどそれなりに咲いて、緩やかな風にゆらゆらと揺れている。まだ蕾の所もあるけど、あの蕾達はきっと来週にでもなれば他の桜の様に綺麗に咲くのだろう。


と、この俺がこんな風にロマンチストになってしまうのはこの一年で色々な事が合って俺が変わったからなんだろう。
毎日、毎日何かにイライラして喧嘩に明け暮れていた中坊の時となんら変わりもせず、阪東達と毎日抗争してそれこそ心身共にズタボロになりながら過ごしていた高2の時にやってきた春道のお陰で俺もヒロミもマコも随分、影響を受けて良い意味で変わったと思う。いや、お陰と言うよりどっちかつーと巻き込まれて行ったな。まあ、そんな春道はあと一年この鈴蘭で過ごす事になるんだがな。出来る事なら俺もまだみんなと一緒に過ごしてーなとか思う。そう思える様になったのはやっぱり春道のお陰だろうか。と卒業式真っ只中にしみじみと考える。


「本城俊明」
「はい」


卒業証書を貰う為に名前を呼ばれ、立ち上がる。あーなんか緊張するな。いつも騒がしくて入学式の時も騒がしかった鈴蘭が、珍しく静まり返ってる所為で余計に緊張する。ステージに上り、校長と対面し卒業証書を貰う。そういや、こんな近くで校長見たの初めてだな。席に戻る時に、外に繋がるドアが開放されていてそこから風に乗って桜の花弁がゆらゆらと入ってきたのが見えた。この体育館でも色んな奴と喧嘩したもんだな。


「あ…」


保護者席にマコの姿があった。俺を見ながら無精髭を生やした顔でニカッと笑ってる。髭くらい剃ってこいやあの馬鹿。つか、春道のヤローも軍司も名前も居ねーし。…あ、ヒロミ寝てやがる!



「卒業おめでとうございます!」


卒業式が終わって、もう二度と来る事はないだろう校舎を思い出を振り返りながらヒロミやマコと歩いてると安田がやって来てそう言った。


「おう!」
「ありがとな」
「つーか春道はどうした?」
「それが朝家に迎えに行ったらもう居なかったんすよ!だから、もう行ったのかなーって思って来てみたら…来てませんでした」
「そうか」


「まったく何処に居るんだか」そう言った安田の肩は心なしか下がっている。「朝から家に居ねーってのは妙だな」って言ってるヒロミは勿論の事、俺もマコも驚いてる。あいつ野宿でもしたんだろーか?


「ま、自分だけ留年ってなって落ち込んで山にでも籠もったんじゃねえか?」
「ハッハッハッ!あいつが落ち込むタマかよ!」
「そうですよ!」
「それもそーか!」


俺達の他愛無い話し声と笑いが、俺達しか居ない廊下にこだまする。ふとヒロミが呟いた。「…俺達も卒業か」「実感…ねーよな」「ああ」実際、また明日鈴蘭に来てこいつらとギャーギャー騒いで笑って喧嘩するんじゃねえかって思ってる。それほどに実感なんてものはねえ。実感がないから淋しくもないし涙も出て来ない。でも、こうやって校舎の中を歩いてると今までの色んな出来事が鮮明に走馬灯の様に思い出される。阪東達と喧嘩したり、安田がグレかけたり、マコが彼女出来たって言って春道とマコを追い掛け回したり、軍司と喧嘩したり、腑抜けた千田に喝入れたり、春道にチンと言われたり、春道の為に県南に行ったり、武装と喧嘩したり、鳳仙と喧嘩したり、ゼットンから春道の昔話聞いたり、女の癖に名前が俺に喧嘩売りに来たり、もう本当に色んな事があったもんだ。


「高校の三年間ってよ…意外と短いんもんだな」
「なんだよポン。干渉に浸ってんのか?」
「まあそんな所だ。つーかお前そんな言葉知ってたんだな」
「当たり前だバカヤロー!」


マコとそんな会話を交わしながらも、まだ頭は今までの事を思い出してる。気付けば、もう校舎を歩き終わっていて俺達は校門に向かっていた。桜がサアァ…と音を立てて揺れている。


「とうとうこの鈴蘭共おさらばだな!」
「ああ」
「なんだかみんなが居なくなっちゃうのは淋しーっすね」
「まあ、そう泣くな!ヤス!」
「まだ泣いてないッス!」


マコにそう言われて否定の言葉を返していても安田の目には溢れ返りそうなくらい涙が溜まってる。あ、やべー俺も泣きそう。鼻の奥がジーンとしてくるのは何年ぶりだろうか。「ポン!ヒロミ!マコ!ヤス!」名前を呼ばれ顔を上げれば「ん?」校門には笑顔の名前と仁王立ちしてる春道とゼットンと軍司が居た。


「は、春道くん!に名前さんにゼットン!軍司!」
「春道…軍司もゼットンも名前も卒業式に出ないでなにやってたんだよ!」
「まーまーどうせ俺の卒業式じゃねーんだからそう怒んなって」
「アホかお前は」


なんていつも通りに会話をしている俺達に「そんな事よりみんな卒業おめでとう!あっ、ヤスは進級おめでとう!」と名前が言う。各々に「おう」だの「ありがとうございます!」だの名前に言い返す。


「で、これは私と春道とゼットンと軍司からささやかなお祝い」


ニコニコと笑いながらそう言ってずっと後ろにやっていた両手を、春道もゼットンも軍司も同様に前に出しきた。その手の中には豪華で綺麗な色んな花達が綺麗にラッピングされた花束が握られていた。俺やヒロミやマコ、勿論安田にも花束をくれた。


「高かったんだから感謝しろよな!」
「こら!そーゆう事を言わないの馬鹿!」
「いって!阿呆叩くな!」
「それ全部押し花にでもしてとっといてくださいっすよ!」
「ゼットンもそーゆう事を言うな!」
「あでっ!」


ギャーギャー騒いでる名前と春道とゼットンを前に、惚けている俺とヒロミ、マコと安田は泣き始めた。まさか名前から、あの春道やゼットンや軍司から花束なんか貰えるなんて思ってもみなかったから吃驚し過ぎてなんも声が出ない。
ありがとうとか色々言う事があるけど、貰った花束や泣き出したマコと安田を見てるとだんだんと卒業が今になって実感してきて目頭が熱くなる。視界も歪んで見えてくる。…ちくしょう…俺も泣きそうだ。
もう、この騒がしい奴らとこの鈴蘭で過ごせなくなるのかと思うと遂に俺も涙が溢れて来た。


「あ!マコとヤスの次にポンが泣いているぞ名前!」
「ほんとだ!ヒロミは…」
「泣いてねーよ」
「そこは泣けよ阿呆!」


でも、ヒロミは涙目だ。あいつ堪えてるぞ絶対。つーか軍司も涙目じゃねえか。んだよちくしょう。……まだこいつらと一緒に鈴蘭に居てーよ。そんな思いが何処からか湧いてくる。


「ほ、本城さんっ」
「…ぐすっ…あ?」
「俺ぁ…本城さんがそ、卒業しても…ぐすっ…あんたに会いに行きますからね」
「あ、阿呆…ストーカーかお前は」
「おっ俺にも会いに来いよなバカヤロー…」


そう言いながら号泣して鼻水垂らしてるマコに笑いが零れる。無口だった男の面影なんて全くない。「ハッハッハッ!」泣きながら笑うなんて正に卒業らしいな。桜が風に揺られ、俺達に花弁が降ってくる。


「みんな本当におめでとう」


気付いたら名前も涙目になっている。あー…涙止まらねえよ。久しぶりに泣いてるから頭痛がしてきた。


「お前等…今まで本当にありがとうな」


ヒロミの言葉に更に涙が溢れてくる。こっちこそありがとうだ。ヒロミやマコはもう六年もの付き合いだ。感謝なんて言葉にゃ出来ねーくらい感謝してる。
勿論、ズタボロだった俺を変えてくれた春道にも感謝してるし、俺に喧嘩売りに来た名前にも色々と世話になったから感謝してるし、ほんとみんなに感謝してる。この俺が人にこんなにも感謝する日が来るとは思ってもみなかったな。


「ありがとう。お前等みんな大好きだぜ」


またいつか会おうな。鴉達。





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