昨日の夜に彼氏の迫田から電話があり「明日、家でダーツ大会やるからよ名前も来いよ!」とのお誘いがあり、朝からルンルン気分で準備して家を出て、足取りも軽くあっという間に梅星一家に到着した。
いつもみたく真っ先に笑顔で寅くんが出て来るんだろうなぁ…と思いながらチャイムを鳴らすと、ドアから顔を出したのはお顔がとても整っている拓海くんだった。


「やあ、いらっしゃい」
「こんにちは」
「もう始まっててみんな熱くなってるよ」


そう言って笑う拓海くんの後ろから「っしゃああ!あと50点!」「なにっ?!あと50点だと?!…俺あと1500もあるんだけど…」と喜びの声上げる寅くんと、どよんとした花くんの声が聞こえる。あんだけ熱中してるんだものそりゃあ出て来ないよねと寅くんがチャイムに出ない事に納得。「ふふっ…ずいぶん盛り上がってるね」「うん。盛り上がり過ぎて部屋が暑いよ」と言いながら、靴を脱ぐ私にご丁寧にスリッパを出してくれる。し、紳士過ぎる…!イケメンな上に紳士で優しい拓海くんはきっと世の女性にモテモテなんだろうなあ。


「ありがとう」
「いえいえ。それより名前ちゃん来週の日曜暇かな?」
「来週の日曜?」
「うん」
「えーっと…バイト入ってないから多分暇だよ」
「そっか。実はさこれ知り合いから貰ったんだけど」


ズボンのポケットを漁り、取り出してきた拓海くんの手には映画のチケットが2枚握られていた。「じゃあ良かったら」そう拓海くんが言った所で「おい拓海!人の女誘ってんじゃねえよ!」「うぐっ…!」後ろから迫田の腕が私の首に回ってきたから抱きしめられるのかと思ったら、何故か首を絞められた。


「違うよ。この映画を迫田と見に行っておいでって言おうとしたんだよ」
「へ…」
「ちょ!さ、迫田!っはなぢて!」
「あ、ああ…すまん」


「はあ…はあっい、いきなり!なにすん、の、よ…?」いきなり首を絞められた事を怒る為に、後ろに振り返ったらそこに居たのは拓海くんみたくお顔が整っている訳ではないいつも通りの迫田が居たけど、私の目に飛び込んで来たのはいつも通りではない迫田の頭。え、パ、パンチパーマ?私が迫田の頭を凝視している間に、拓海くんは「ふふっ」と笑いながらみんなが居るリビングに行ってしまったのがドアの閉まる音で分かった。


「?なんだ?」
「いや…なにその髪型」
「ん?ああこれか。これなぁパンチパーマって言うんだよ」
「んな事ぐらい知ってるわよ!そうじゃなくて!なんで髪型変わってんの?!」
「…なんとなく?」
「はあああ?なに世の中のヤンキーはなんとなくでパンチパーマにすんの?!」
「ちょ、ちょと待て落ち着けよ名前」


「これが落ち着いてられるかって!だってパンチパーマだよ?!なんで?なんでよりによってパンチなの?!ちょっと短くするだけじゃダメだったの?!あー意味わか…んっ」騒ぐ私を黙らせる為に迫田の唇が私の唇を塞ぐ。…なによ滅多にキスしてくれない癖に。「ちったぁー落ち着けって」直ぐに唇は離れてしかめっ面の迫田と目が合う。


「…」
「なんでそんなに怒ってんだよ」
「…だって」
「あ?」
「…髪型が」
「んなにパンチが嫌いか?」
「…別に嫌いじゃない」
「ならなんでだよ」
「…前の髪型…好きだったんだもん」
「!」


そう好きだったんだよ…あのツンツンが。普通に迫田に似合ってたし。…でも、ちょっと怒り過ぎたかな。めんどくさい奴だって思われちゃったかな。不貞腐れる気持ちと嫌われてしまったかという不安な気持ちに居たたまれなくなって下を向く。「ああくそっ!またハズレた!」とリビングの方からは花くんの嘆きが聞こえてきた。
暫く2人共黙っていたら「ごめん」と私に言いながら迫田が優しく抱きしめて来た。


「…名前がそんなにあの髪型を気に入ってると思ってなくてよ」
「…」
「ごめんな」
「…悪いのは迫田じゃないよ」
「…」
「私が1人で理不尽に怒ってたんだから私が悪いの。迫田が髪型変えるのは迫田の勝手なのにさ」


「ごめんね」そう私が謝った瞬間に「迫田ー!名前ちゃーん!」と花くんが勢いよくリビングの扉を開けた。思わず、バッ…とお互い体を離してしまう。そんな私達を気にもせず「早くみんなでダーツしようぜ!」とニカッと笑って言う花くんに「ガッハッハッ…そうだな!早くダーツしようぜ名前!」と釣られてニカッと笑う迫田。
そんな2人に私も「うん!」と釣られてニカッと笑う。なんか花くんを見てると、さっきまで些細な事で怒ってた私が馬鹿だって思わされてきたわ。


「あ!でも迫田!」
「ん?」
「これからはもう二度とパンチにはしないでね!」
「なんでだよ?」
「似合ってないから!しょーじきないわ!」
「あ゛あ゛?!んだとテメー!」
「あははっ」


まあ、でも迫田の事は好きだから当分の間はパンチでも我慢しててあげようかな。





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