「好きです、付き合ってください」

この台詞を今まで何度言われてきただろうか。惚気や自慢では無いが、数える気すら失せる程に言われてきた。そして、「ごめん」と今まで何度言ってきただろうか。最近では、断る事すらもめんどくさくなってきた。
どいつもこいつも同じ言葉しか言わねえ。例え、どんな言葉を並べても結局はやっぱり冒頭の台詞になる。最低な話だが正直、飽き飽きだ。もっと面白みがある言い方は出来ないのだろうか?
ああ、そういや昔それをポンに言ったら「贅沢な悩みだなこのヤロー!うんこ!」って言われたっけか。…俺はうんこじゃねえよ。

なんて考えながら、恐らく春道がいびきをかいて寝ているであろう屋上にサボりに行く為に屋上に繋がる階段をのそのそと上がっていく。普段は割とおとなしく授業を受けているが、今日はサボりたい気分だからサボる。まあ受けていると言っても、内容なんてこれっぽっちも入ってねえんだけどな。
重たい屋上のドアを押すと、ギィ…と音を立てて開く。ふわぁと、暑過ぎず冷た過ぎず丁度良い心地好い風が、ドアを開けた事により校舎に吸い込まれて行く。


「あ、ヒロミ!」


屋上に足を入れた瞬間、この鈴蘭に響く筈のない柔らかい声が俺を呼んだ。「名前……オメー学校は?」「サボりー」「またサボりかよ」俺を呼んだ人物は、いつも春道が寝ているソファーに座ってこちらを見ていた。つか、春道が居ねえ。あいつが10時過ぎても来てねえって事は休みか?


「だってさー黙って小煩い先公の話聞いてる事ほど暇な事はないし、皆に会いたったからさー」
「ふーん」
「つーかヒロミだってサボりじゃん」


「まーな」と名前に返事をしながらポケットから煙草を取り出して火を付ける。あ、オイル切れそーだな。ライターを見るとオイルが今にも底を尽きそうだった。


「私にも煙草ちょーだい」
「女が煙草吸うな」
「なによそれー」


「ぶー男女差別はんたーい」と言いながら頬を膨らませてる女は俺ん家の近くに住んでる近所の奴で、俗に言う幼なじみ。かれこれ10年の付き合いになるか…。その幼なじみのサボる場所は一年の時からずっと決まってこの鈴蘭だ。いくら自分の学校が鈴蘭に近いと言ってもわざわざ危険を冒してまでやって来る女は世界中にただ1人、こいつだけだろうな。


「そういや、お前どうやってこの屋上まで誰にも見付からずに来てんだ?」
「フッフッフッ…教えて欲しいですかなヒロミくん」
「ああ是非とも」
「それはですね…」


かなりの間を置いて「秘密でーす!」とソファーに立ち上がって言う名前。昔の俺なら絶対ここでキレてたな…としみじみ思う。「フッ…教えろよ阿呆」「企業秘密です!」と言いながらソファーに座り直す。


「そういやヒロミって昔は短気だったよねー」
「なんだよ突然」
「いや、さっき私が馬鹿にしたのに怒らなかったから」


馬鹿にしてたのかよ。とツッコミたくなったがそこは敢えてスルーして煙草を吹かす。「あと良く笑うようになったよね」と言いながら、フェンスに背中を預けていた俺の隣に名前も来て背中を預ける。


「そうか?」
「うん。だって前は眉毛無しでいつも睨み効かしてまさに狂犬だったもん」


「こーんな顔してた」と言って自分の指で目を吊り上がらせて、その当時の俺の顔の真似をした。が、その顔は明らかに俺の真似と言うよりただの不細工な狐にしか見えない。


「そこまで不細工なツラしてねぇよ」
「誰が不細工よ!」
「誰も名前とは言ってねぇ」
「言った!」
「言ってねぇ」


「なによヒロミの癖に生意気ね!」そう言って俺が新たに火を付けた煙草に手を掛ける。慌てて「あっオイ!」と叫んだ後にはもう俺の指には煙草の感覚が無く、それは名前の口に納まっていた。


「今度1本返せよ」
「男がケチケチ言わない!」
「うるせー」


あーあ勿体ねえ。名前にやるくらいなら桂木さんにやった方が幾分かは増しだな。と思いながらため息を吐く。


「ヒロミはさー眉毛ある方がかっこいいよ」
「は?」
「まあ、眉毛無くてもかっこいいんだけどねー」


こっちを見ながら笑顔でそう言われるとさすがの俺も照れる訳で。名前から視線を顔ごと明後日に向ける。だが、そんな事を知らない名前は「でも、やっぱり私は眉毛あるヒロミの方が好きかな」と明後日に向けた俺の顔をご丁寧に、自分の方に向かせる名前に情けないが心臓が早く脈打ち出す。


「それって告白か?」
「へっ?」
「どうなんだよ?」
「…こっこく、はく…です」


そう言った名前の顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく。なんとも珍しい光景を見れたもんだな。


「…ヒロミがすっ好きだ馬鹿野郎!だから私と付き合いなさいよ!」


真っ赤にした顔で逆ギレにもみた告白をされて、思わず煙草が手からするりと落ちて行った。今まで何度も言われてきたものとは全く違う、比べものにもならないくらい面白味のある告白。あ、ヤバいなこれ。面白味があり過ぎて「くっくくく…」と堪えていた笑いを溢せば「笑うなこの野郎ー!」と言って顔を両手で隠しながら走って屋上から出て行った。


「くくっ…言い逃げかよ」


今まで、もっと面白味がある告白はないのかとかなんとか理由を付けて断っていたのは名前からの告白を待っていたからなのかも知れねーな。背中を預けていたフェンスから離れて、ふと空を見上げる。…よし、帰ったら薔薇でも買いに行こう。んで、名前に渡しながら俺も告白してやっかな。


「…って、これはちょっとキザ過ぎるか」





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