連日に比べたら幾分か暖かかった今日の昼間は、陽が傾いて行くに連れて寒さを帯びてくる。5時を過ぎれば風が当たる度に頬は痛み、身体中が小刻みに震えてくる程に寒い。「…なんでこない寒いねん」悪態をボソッと呟けば言葉と一緒に漏れた息が白くなって空に舞い上がった。

学校の職員玄関前でずっと待っているのに、一向に出て来ない俺の恋人。と言うか、誰一人として出て来ないのはどういうこっちゃ?会議中なんやろか?時間を確認する為に携帯を開けば、ディスプレイには8時半と記されていた。あーあ…俺3時間も外に居るわ。絶対、風邪引くで…これ。「あれ…平子くん?」後ろから俺の大好きな声が俺を呼び、振り向けば待ちわびた恋人が不思議そうな顔でこっちを見ていた。


「よう」
「何してるの?下校時間とっくに過ぎてるよ?てゆうかいつからここに居たの?」
「そー、一辺に質問すんなや。答えられへんやろ」
「あ、ごめん」
「先生を待ってた」
「なんで?」


「なんでって…そりゃー駅まで送ったろ思て」と目線だけ外して言えば「ふーん」とニヤニヤした顔で先生が俺を見ながら答えた。「ふふっ…じゃあ帰ろっか!」真っ白なマフラーを首に巻いて先を歩きだす先生に黙って俺も歩きだす。



「そない高い所歩いとったら危ないで…先生」


歩道橋の上を怖がりもせず、綱渡りみたいに歩く先生に一言掛けるが「あら、いつも小生意気な平子くんが私の心配してくれるなんてどういう風の吹き回し?」と風に靡く髪を軽く片手て押さえながら俺に笑って問い掛ける。歩道橋の上を歩くとか、ほんま女の癖にして度胸有り過ぎやろ。


「んなもんないわ。ただ、先生がドがつく程ドジやからそっから落ちて怪我したら俺が助けなきゃあかんやろ?それがめんどくさいから言うてんねん」
「ほんと平子くんて可愛くないよねー」


冷たい癖に優しくふわりと吹いた風で先生のスカートが揺れる。もう少しでパンツが見えてしまうんやないかっていうのに本人は全く気にもしていない御様子。


「パンツ見えるで」
「見たいの?」
「誰もそないな事言っとらんやろボケ」
「嘘つけーほんとは見たい癖にー」
「そんな色気もくそもないパンツ見とうないわ」
「え、ちょ見たの?!」
「さあ?」
「変態!」


さっきまで余裕噛ましてた癖に、見た素振りの事を言えば顔を真っ赤にして焦りだす。その顔が余りにも可愛くて隠していた頬の弛みが隠しづらくなる。やっぱからかいがいのある先生や。


「先生ー」
「なっ、なによ」
「ちゅーしたなってきた」
「じゃあ、電柱にしてきたら?」
「酔っぱらいとちゃうわ!」
「あははっ」
「先生に、」


「名前にちゅーしたいねん」真っ直ぐ真剣に未だ歩道橋の上に居る先生にそう伝える。


「…外だからダメ」
「なら家に帰ったらしてええの?」


暫く考えてから「良いわよ」と意地悪く笑って素直に答えた先生になんとなく嫌な予感がした。


「なんやずいぶん素直やな」
「ふふっ…その代わり私の教科で絶対に満点取りなさいよ?」


予感的中。こりゃ、こないだのテストで0点取った事まだ根に持っとるな。
まあ、先生の家まで行ってちゅーだけしてバイバイなーんて事だけじゃ終わらさへんからそれくらいしたってもええか。





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