「なあ名前、恋ってなんだと思う?」


いつもの様にゼットンと学校から帰ってる時に、突然「う…ヤバイ。べ、便所」と青ざめた顔で言いだすもんだから、近くにあった公園に寄った。
ゼットンを待つ間、ブランコに乗る。ったく…あいつの腹の弱さは、いつになったら治るんだか…。中学の時から一緒だった私は、今までに何百回あいつの糞に付き合わされただろうか。そういや、春道さんの糞にも何回も付き合わされた事があったな。なんか私って糞の思い出しかない気がする。と、少し昔の思い出に浸っていると「スッキリしたー」と言いながら便所から帰ってきたゼットンから先ほどの冒頭の言葉を妙に真剣な顔で問われる。


「は?」
「いや、だから恋ってなんだと思う?」
「き、気持ち悪っ!なにあんたが恋とか言ってんのよ?!おえーきもっ!」
「き、気持ち悪いと2回も言ったね君…」
「だって気持ち悪いんだもの!あんたがそんな事言うから背中がゾワーっとしたわドアホ!あー気持ち悪いっ」
「てめえ!純粋に悩むピュアな俺に向かって気持ち悪いとはなんだ!しかも3回も言いやがって!この野郎!いくら幼なじみとは言えど言って良い事と悪い事があるでしょーが!」
「はあ?!いつ私とあんたが幼なじみになったのよ!中学が一緒だっただけじゃない!」
「それを世間では幼なじみと言うんだよ阿呆たれ!国語の教科書見直して来なさいこの大馬鹿者!」
「言わないわよ!それに国語の教科書になんか載ってる訳ないでしょ!てゆーかさっきから阿呆だの馬鹿だの言いやがってこの!」


「俺は本当の事を言ったまでだ!」とそれはそれは大層腹が立つ顔で言われ、こっちも言い返そうと思ったけど明らかにこの口喧嘩の終わりが見えないから止めた。うん、ここは冷静になろう。深呼吸をしてゼットンを睨んで「…で、恋がどうしたって?」と話を切り替える。「だからよ、名前は恋ってなんだと思う?」と言いながら私の隣のブランコにゼットンも座る。


「知らないわよ、そんなの」
「おい!それじゃ俺の悩みが解決しないじゃないか!」
「あのねえー…。大体なんで私に相談する訳?武装の武田とかに相談すれば良いじゃん。あの人経験豊富そうだし」
「なんでって…お前女子だから恋とかするじゃん。それに好誠はありゃダメだ」
「なんでよ?」
「俺の綺麗なプライドに傷がついちまう」
「汚いプライドの間違いでしょ」
「あん?!」


ただ座っていたブランコを、地面を蹴ってゆっくりと漕ぎだす。
恋とはなにか、ねえ…。そんな事、私に聞かれても困るんだけどな。いくら私が女子だからと言って必ずしも恋をしてるとは限らない。実際、この17年間生きてきて恋なんてした記憶が全く無いし、第一、自分でも恋なんて物を分かってないのに他人に説明出来る筈がない。「はあ…」仕方ないから、ブランコを止めて運良く図書室に返し忘れた辞書が鞄に入っていたから引いてみた。


「恋…異性に強く惹かれ、会いたい、ひとりじめにしたい、一緒になりたいと思う気持ち。…だってさ」


「ふぅーん」私がわざわざ辞書を引いて説明してやったのに、ゼットンは大して聞いてない様な声でブランコを立ち乗りで漕ぎだす。


「ふぅーんって…。まあ、これで理解した?」
「2割りは理解した」
「はあ?たったの2割りだけ?」「だってよ、恋ってのは言葉じゃ分からねえだろ。そんな並べられた文字じゃ尚更分からねえ」
「じゃあ、どうやったら分かるのよ?」


「とうっ!」と言って立ち乗りしていたブランコから豪快に飛び降りるゼットンを私は、ぼんやりと見つめる。ふと、「そりゃあ体験に決まってる。心で感じて頭で色々考えながらもそんなの無視して本能にしたがって動く」とこちらに向かって歩きながら言うゼットンに「まるで動物ね」と思ったまま言葉にする。


「そう動物と一緒だ。恋なんて頭じゃ分からないんだからな」
「つか、あんた分かってんじゃん恋の事」
「いや、これでやっと5割りだ。後はしてみねえと分かんねえ事だな」
「あっそ。ならこの話は終わり。じゃ私帰るから」


ブランコから立ち上がり、鞄を持ち私の目の前まで来たゼットンに背を向け歩き出す私に「俺は今、恋をしてる」と告げられる。振り返ると、ゼットンはまた真剣な顔つきで話を続ける。


「ある人の事を考えると胸が温かくなる。ある人がヤローと一緒に居ると胸を締め付けられる。ある人が笑って俺と話してくれると胸がきゅうっとなって抱き締めたくなるし、チューもしたくなる。これを俺は恋だと思ってる」
「うん。それで?」
「そのある人は誰だと思う?」
「……まさか…春道さん?」
「ど、ど阿呆!なんでここで春道くんが出て来るんだよ!」
「いやあ、ねえ…?」
「ったく。…ある人はお前だよ」
「私?」


「そ。俺が恋してるのは名前」その瞬間、時が止まった様な気がした。だって、毎日と言って良いほど一緒に居て馬鹿やってきた友達のゼットンが私に恋してるって…。予想外過ぎて吃驚した筈なのに、そんな吃驚よりゼットンに俗に言う告白をされた嬉しさの方が明らかに勝ってて思わず声を上げた。


「私だってゼットンに恋してる!」


ああ、ほんとだ。ゼットンの言う通り、恋は言葉じゃ分からない。体験してみないと分からないね。恋なんてした事がない私が気付いたら恋してて、しかもこの私が恥ずかし気もなく告白までしてるとか。そして自覚すると、どんどん胸が温かくなってきて、ゼットンを抱き締めたいと思えてきた。これが恋と言う物なのだろうか。


「て事は、俺達両思い…?」
「そうだね」


「名前名前!抱き締めたいから来い!」と、両手を広げてスタンバるゼットンに恥ずかしさを感じながらも「うん!」と言って飛び込みに行く私はいつもの私ではない。

どうやら恋は人まで変えてしまう物らしい。





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