「んだよ、なにがバレンタインだ!なにがチョコだ!」
「そーだそーだ!」


春道を筆頭に、安田や佐川達が今日がバレンタインで自分達が女子からチョコを貰えない事に腹を立てて騒いでいる。勿論、俺も例外では無いから一緒に騒いでいる。が、俺は一個もチョコを貰えないとは全く思っていない。正しく言えば、一個だけチョコを貰えると思っている。何故なら、


「やあやあ!彼女が居ない寂しい愚民共の諸君!元気にしとるかね?」
「んだとこのッ!喧嘩売ってんのかお前!」


そうこの、なんとも腹立たしい台詞を大声で張り上げてこのサッカー部の部室に入って来た彼女の名前が居るからチョコを貰えない確率は極めて低いのである。その証拠にちゃんと名前の手には紙袋がある。あれは間違いなくチョコだ。「あーそんな事言ってんならねーこのチョコあげないからね」と言ってガサガサと紙袋を揺らす。「す、すいやせんでした名前さんっ」「あわわごめんなさい名前さん」と謝る安田と佐川。こいつらには男としてのプライドっつーもんは無いのだろうか。春道なんて「ま、まあ名前がどーしてもってんなら貰ってやらん事もないけど?」とか言いながら目線は明らかにチョコに向けられている。阿呆だな…ほんと。


「ふふっ…はいはい。ほらあげるわよ」


紙袋から出したチョコを春道達にあげだす名前。きっちり人数分用意してあってヒロミにもあげていた。マコには、愛しの泉から貰うチョコがあるからあげねえらしい。
貰った奴らは各々にやけている間に、よし、次は俺の番だ。そう確信して今か今かと待っていたら「じゃあ私これから用事あるから帰るねー」と言って部室から出ていった名前。
は?お、俺の分は?!慌てて俺も部室から出て行けば、直ぐそこで笑顔の名前が立っていた。


「お、俺の分はねー訳?」と言えば「あるに決まってるじゃん」と明らかに他の奴らとは違うラッピングの本命チョコを渡される。貰えるだろうと分かっていたとしても、実際貰えると嬉しくて思わず頬が弛んだ。


「なにニヤニヤしてんのよ」
「してねーよ阿呆」


「…ありがとな」「うん!」あーやべえ。まじで嬉しいし幸せだ。「名前。俺、幸せに溺れそうなんだけど」「は?なにそれ?」冷たくあしらわれたけど、名前の耳は確かに赤く染まっていたのを俺は見逃さない。


それから、恋人らしく手を繋いでゲーセンとか寄ってから家に帰った。勿論、チョコは言うまでもなく旨くて、旨過ぎて余計に幸せになって俺の顔は終始弛みっぱなしだった。





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