「ねえ群青」
「はい?」
「あなた…目は見えないの?」
「…ええ。今はもう何も見えません」


今はもう…と言う事は以前は見えていたのだろうか。群青の双眼を覆っている灰色の布の所為で今この人がどんな表情をしているのか、やはり口だけでは判断がしにくい。声色で判断しようにもこの人は、全く声色変えず話すものだから意味がない。哀しみに暮れているのか、又はそんな事気にしていないのか。それさえも分からない。


「目が見えないと不便?」
「そうですね。やはり慣れるまでは不便でしたが慣れてしまえばどうって事はありませんよ」
「慣れるとか慣れないとかそう言う問題かしら?」
「そう言う問題ですよ」


そう言って彼はこの第三下層の淀んだ空を見上げた。見上げても彼は目が見えないのだから意味はない筈だが、こんな行動をとるのは恐らく彼が目が見えなくなった事に少しでも哀しみを感じているからなのだろう。


「目が見えなくて嫌になる事とかないの?」
「無いと言えば嘘になりますが、これといってある訳でもありません」
「ふーん」


「まあ、強いて言うなら愛しい貴方の顔が見られないと言う事でしょうか」そう言った群青の声色は珍しく変わっていて、心なしか今にも泣き出しそうな声だった。「群青…」と名前を呼べば私の頬を腕とは呼べない太く長い鞭の様な腕で優しく撫でて「こんな私ですみません」とまた泣き出しそうな声で言った群青の頬には確かに涙が伝った後があった。





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