空に浮かんでいる雲はいつもは真っ白な色をしているのに、今日は黒く淀み雨を産み出している。ザーザーと地面に叩きつけられている大量の雨粒はどこか、この町に沢山居る不良達みたいだ。


雨は人を憂鬱にすると誰かが言っていた様な気がするが、私は憂鬱と言うより感傷に浸り始めてしまう。
だけど、その感傷に浸っていたお陰で学校から帰宅途中の私の耳に、ふと何処からか「ニャー…ニャー…」と今にも消え入りそうな猫の鳴き声が届いた。よく、そんなか細い声を聞き取れたなーと自分でも感心しながら声の聞こえる方へ行くと電柱の下に段ボールが置いてあり、そこから子猫が顔を出して雨に打たれながら鳴いていた。
見るからに捨て猫だろう。擦れている声で一生懸命に鳴いているのは親を探しているからなのだろうか。

とりあえず、あのままでは風邪を引いてしまうから私が保護しようと思って足を一歩進めた時に、曲がり角から雨でびしょ濡れになった全身真っ黒な格好の男が現れた。私は思わず、踏み出した足を元に戻す。


「ニャー」
「ん?…お前、捨て猫か?」
「ニャー」
「そうかそうか」


全身真っ黒な格好の男は、猫が入ってる段ボールの前に屈み、俗に言うヤンキー座りをして、人語を喋る筈の無い猫に話掛けだした。良く見ると、その男の背中には見覚えのある髑髏のマークが付いている。ああ…武装戦線か。この町に住んでいたら一度や二度…いや三度は見た事のあるあのマークは、ある友達に聞いた話によると武装戦線と言うバイクチームのマークらしい。

私は至って普通の善良なる女子高生だから、正直あの人には関わりたくない。猫には悪いけどこのまま帰ろう。と思うのに、あの人が人語を喋らない猫に一生懸命色々と話掛けているのが面白過ぎて目が離せないでいる。


「お前も色々と辛いんだなー」
「ニャー」
「分かるぜ。お前の気持ち。まあ俺も似たようなもんだからよ」
「ニャー」
「おっ。なんだお前と俺は随分気が合うな!」


何処で会話が成立しているかも分からないし、そもそも猫が何を話しているかも分からないのに、あの人は何故か1人で勝手に解釈して盛り上がっている。
や、ヤバイ…あの人面白過ぎる…!思わず吹き出しそうになる笑いを必死に堪えて、物陰からあの人と猫を見る。


「よし!じゃあお前は今日から俺の兄弟分だ!」
「ニャー」
「名前は…。うん。シャークにしよう!どうだ?嬉しいか?」
「ニャー」
「そーかそーか!そんなに嬉しいか!ガッハハハ!」


ちょ、シャークって!ネーミングセンスなさ過ぎっ!遂に笑いを堪えているのが耐えられなくなり、隣にあった民家の塀をバシバシ叩きながら心の中で爆笑する。あの人ほんとに武装戦線の人なんだろうか?とても不良とは思えぬあの笑いのセンスは、本職のお笑い芸人より高いし面白い。もしかして武装戦線がバイクチームと言うのは建前で、実はお笑い芸人の集団なのかも知れない。
そう考えると更に笑いが堪えられなくなり、目尻に笑いによる涙が溜まる。


もうほんと、不良が猫を拾うと言うパターンがどこの少女漫画だよとか、ベタだなとか、思ったけど、いかにも不良ですって顔に変な髪型の人が可愛らしい子猫に一方的に話し掛けてセンスの無い名前を付けて笑って撫でてるっていうその光景は余りにも異様過ぎて、色々と私のツボにハマり過ぎて、

私は一瞬で恋に落ちました。


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