今日の名前は変だ。
見た目云々ではなく、態度がおかし過ぎる。常に何か考えて込んでいて、時には眉間に皺を寄せては険しい顔をして、時には照れたりして…よく分かんねえ。


「名前」
「へ、へい!」
「…へいってなんだよ」
「…なんだろ?」
「知るか」


挙動不審
その言葉が今日の名前にぴったり合うと思った事は今日が初めてだ。じーっと見つめていたら体をもじもじしながら上目でこちらを見てきた。気持ちわりい顔。


「ね、ねえ…今日の私、なんかいつもと違うと、思わない?」
「あ?…別に思わねえけど?」
「なっ!」


何をそんな目をかっ開いて驚く必要があんだか。挙動不審なのを抜けば、いつもと違わないねえのによ。


「………ま、」
「ま?」
「…………ま、…前髪…」
「前髪…?」
「…うん」
「それがどうした?」
「……切ったの」
「へえ」
「そ、それだけ?」
「なにが?」
「もっとさ、可愛いねとか無い訳?」
「いや、だって全然変わってねえじゃん」
「変わったわよ!前髪2cmも切ったのよ!」
「んな違い分かるか、ボケ!」
「前髪の2cmくらい分かるでしょうが!」
「無理だろ!」
「無理じゃない!」


「もういい!」そう言って繋いでいた手を離してそっぽを向いた。あ…。そっぽ向いた名前を見たら、確かに前髪が短くなってる感じがする……様な気がする。
「名前」名前を呼んでも振り向かない所を見ると相当怒ってる様子。はあ…なんで女ってこうもめんどくさい生き物なんだ。ほんの少し変わった所を指摘しないだけで怒るなんてどんだけ器が小せえんだよ。


「私……不動くんが前髪もっと短い方が可愛いって言うから切ったんだもん」


ぽつりと名前が吐いた言葉に目が丸くなる。あれ冗談で言ったんだったんたけどな。本気にしてたのか…。
どうやら俺はおかしいのかも知れない。器が小さくてめんどくせえ名前が、俺の言った事の為に前髪を切った事が嬉しいだなんて不覚にも思ってしまった。


「…可愛いんじゃねーの」


今にも空気に溶けてしまいそうなくらい小さく吐いた俺の声を聞き取って、そっぽを向いていた名前がこちらを口を開けたまま見ていた。それが気恥ずかしくて「さっさと帰るぞ」と乱暴に言って名前の手を握って歩きだした。


20101117


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