俺にはすっげえ可愛い名前と言う彼女が居て、付き合ってもう2年が経つ。
なのに、俺は2年が経った今までも名前を抱き締めた事がない。俺が抱き締められても、俺から抱き締めた事は一度だってない。抱き締めたい気持ちはこれでもかってくらいあるのに、俺に腕が無いばかりに名前を抱き締めてやれない。


「ハンディ!」


ソファーに座っていた俺の名前を呼び、膝の上に座ってくる名前。


「なんだよ…?」
「なんで気難しい顔してんの?」
「は?俺が?」
「うん」


顔に出てたのか…。「まあいいや!」なんて言いながら俺の膝に座ったまま雑誌を読み始めた。


「おい」
「んー?」
「重いから降りて」
「えーいやー」


ソファーの背もたれに背中を預けてる俺に、名前は背中を預けてくる。本来ならここで抱き締めてやるべきなのにな…。
俺に腕が無い所為で名前を抱き締めてやれない。
俺に腕が無い所為で名前の頭を撫でてやれない。
俺に腕が無い所為で名前の手作りの物も自分で食えない。


腕が無いだけでこんなにも不安になったのは初めてだ。そんな自分が滑稽で笑えてくる。


「ねえ、ハンディ」
「…なに」
「私ね、本当はハンディに抱き締めてもらいたいの」
「…うん」
「でもハンディには腕が無いからそれは出来ないでしょう?」
「…うん」


「だからね、」と言って後ろに振り返り、勢いよく俺に抱きついてくる。「お、おい名前」俺の声かけなど気にする素振りも無く、効果音を付けるならぎゅーと言う感じに力を強められる。


「ハンディに抱き締めて欲しいけどそれは我慢するの!」
「……」
「でも、抱き締めて欲しいって思ったら私が抱き締める事にした!」


何だか言ってる事が滅茶苦茶だけど、名前のその行為のお陰で少し救われた気がした。


「ごめんな…名前…」


大好きだ。


20101019


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テーマ「人外ファンタジー」
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